医師の労働環境は改善されるの?時間外手当の判決から考えてみた

医師の不足による長時間労働は、問題になり続けています。働き方改革でも検討会が設置されたほどです。しかし、なかなか状況は改善しません。このような状況で、司法がどのような判断を下したのかを紹介します。

  1. 時間外手当を1億円と算定
  2. ずっと緊急事態に備えているのに労働ではない!?
  3. 50時間以上の連続勤務も!

時間外手当を1億円と算定

2019年3月、厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会 報告書」を発表しました。そこには「我が国の医療は、医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており、 危機的な状況にあるという現状認識を共有することが必要である」と書かれていました。

じつは今から4年以上前の2014年12月末、奈良県の産婦人科医の医師2人が時間外手当の支払いを求めていた訴訟で、大阪高裁は病院側に約1,280万円の支払いを命じました。

2人の医師は2006年と2007年の時間外手当を約1億円と算定しましたが、高裁は病院外で待機して呼び出しに対応する「宅直」を時間外手当の支給対象としない地裁判決を支持。そのうえで病院側が法令遵守や医師の負担軽減にある程度努力していることを考慮。約1,900万円の支払いを命じた地裁判決の付加金(制裁金)を減額としたのです。

また医師たちは2004年・2005年分の時間外手当についても同様の訴えを起こしており、2014年2月に最高裁が上告を不受理として判決が確定しています。こちらの高裁判決では、原告・被告双方の控訴を棄却、奈良地裁を支持する判決が出されました。

ずっと緊急事態に備えているのに労働ではない!?

この一連の判決で問題になったのは、医師の勤務制度でした。

この病院では、夜間の宿直勤務(病院で緊急事態に備えて待機)や宅直勤務(病院外で緊急事態に備えて待機)が行われていましたが、その実作業時間については割増賃金等が支払われていたのに、実作業時間以外の宿直勤務・宅直勤務時間は労働時間として扱われていなかったのです。

しかし呼び出しがないからと安心して眠るわけにはいかないでしょう。そもそも2009年の奈良地裁判決は、原告の勤務については「1人で異常分娩に立ち会うなど、睡眠時間を十分に取ることは難しい」との判断を示しています。

原告側は、この一連の裁判についてお金が目的ではなく、あまりに過酷な環境をどうにかしてほしい、と訴えていました。2009年の奈良地裁判決後にも「こんな巨額な割増賃金が発生すること自体がおかしい。そんなのが発生しないような職場にしてほしい」とのコメントを発表しています。

一方、病院側は「宅直でなくとも呼ばれたら出てくる。それを全部勤務と認めるのか。医師の職業倫理としてされてきたことを制度としてどう扱うかが問題だ」(『朝日新聞』2009年4月23日)と取材に答えています。

50時間以上の連続勤務も!

医師、特に産婦人科医の不足や公的病院の赤字などは、日本の医療が抱える大きな問題で、現在でも解決されたとは言い難い状況です。医師が足りないことで救急患者の受け入れ拒否も起きており、そうしたひずみを職業意識の高い医師が支えているといえるでしょう。

原告2人が2年間でおこなった当直は313回、50時間以上の連続勤務もあり、担当したお産が約300件。さまざまな状況を考慮し専門的知識・経験を総動員して状況に対処しなければならない医師が、こうした労働環境に不安と不満を持つのは当然でしょう。

深刻な医師不足に対しては、これまでにも対策が施されてきました。医学部の入学定員を増やしたり、大学における奨学金制度の充実を図ったり、女性医師が働きやすい職場環境の整備をするなどなど。実際、医師数は順調に増えており、2012年末の医師数は調査以来初めて30万人を超えました。しかし総数が増えても、地域あるいは診療科によって医師数の不足が見られます。

生命を守る医師の高い職業倫理だけに期待するのではなく、医師も患者も安心の職場環境をどのように整えていくのかは、労働問題の枠を超えた重要な問題です。働き方改革で医師の勤務がどのように変わってくのかは、医師だけではなく、患者の側も今後の改革に注目する必要があるでしょう。

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