企業に勤める労働者であっても、副業をする人が増えてきています。自分のスキルや可能性を勤務する会社以外に求めることは、すでに珍しいことではなくなっています。ただ個人事業主には労災の補償がないという危険性があることを知っていますか?

- 参考にしたいアスベストの判決とは
- 司法による救済の流れに
- 取り残された個人事業主たち
参考にしたいアスベストの判決とは
2017年10月末、建設現場でのアスベスト(石綿)の健康被害に対する初の高裁判決が言い渡されました。「建設石綿訴訟」は全国で14件が係争中で、7件で一審判決が出ています。そのうち6件で国の責任を認めました。そうした判決の流れは高裁判決でも引き継がれ、1981年までにはアスベストによる健康被害が明らかだったことを理由として、国は建設現場で防じんマスク使用を義務づけるべきとの判決を下しています。
さて、7件の地裁判決で地裁の判断が割れていたのは、製造メーカーの責任問題でした。国が肺ガンや中皮腫の発症を予見できる立場にあるなら、責任を認めてもおかしくないように思いますが、そこには建築現場ならではの壁が立ちふさがります。
まず建築労働者の多くが現場を渡り歩くため、どこの現場で曝露したのか特定が難しいのです。もちろん雇用主の責任を追及するのも困難ですし、どこのメーカーのアスベストだったのかを立証することも難しくなります。これだけでもメーカーの責任を問うのは十分に厳しいのですが、さらに中皮腫は発症までに30〜40年という潜伏期間があります。結果としてどの現場で何を使い、誰が働いていたのかを明らかにするのが容易ではありません。それが7件の地裁判決のうち、メーカーの責任を認めたのがわずか2件という数字に表れています。
司法による救済の流れに

しかしこの高裁判決では、アスベストの製造期間や市場の占有率から、各メーカーの責任の割合を推定できるという考えを示し、慰謝料の支払いを命じています。
アスベストを原因とする患者の労災認定者は、年間約1000人もおり、その半数が建設業の従事者です。また集団訴訟の原告患者の7割が亡くなっているという重い現実もあります。すでにアスベスト関連工場の元従業員による集団訴訟では、最高裁判決が出され国家賠償も行われています。こうした現実を前に、被害者救済という司法の流れが強まっています。国とメーカー、両方の責任を認めた高裁判決は、係争中の別の建設石綿訴訟にも影響を与えるだろうとも報じられています。
取り残された個人事業主たち
被害者救済を強く打ち出した今回の高裁判決ですが、それでも全面的に救済されない原告がいました。通称「一人親方」と呼ばれる個人事業主の人たちです。
大規模な問題になっているためわかりにくいのですが、「建設石綿訴訟」は、業務上の災害が発生したときに労働者が国に補償を求めることができる労災保険制度による補償を求めている裁判なのです。労災であると認められれば、無料で治療を受けられるだけではなく、遺族の方々にも遺族補償年金などが支払われます。
ただし、労災認定を受けるには、二つの要件を満たす必要があります。一つは労働者であること、もう一つが業務上の災害であることです。アスベストの場合、業務上の災害であることは疑いようもないのですが、経営者や自営業者、一人親方は労災保険制度の対象にならないのです。もちろん制度上の救済措置もあり、特別加入制度を利用していれば自営業者などでも労災認定が可能です。しかし多くの一人親方が特別加入していませんでした。
それでもこの高裁判決では、一人親方のうち7人については、「実際は会社の指揮下で働いていた」として労働者と認定。国の賠償の対象としました。
労働災害と個人事業主の問題は、実際に事故が起こったときに大きな問題となります。個人事業主の多くも労災の補償がない危険性を理解していません。危険な現場をともなう仕事を、個人事業主と請け負う場合は注意が必要でしょう。