労働者かどうかなんて、普通は考えたことがない人がほとんどでしょう。でも、労働組合に入って会社側と交渉するときなどには、大きな意味を持ってきます。ちょっと不思議な「労働者」の定義をお伝えしますね。

- 労働者じゃないと団体交渉できない
- 労働者の要件は3つ
- プロ野球選手もオペラの合唱団員も「労働者」
労働者じゃないと団体交渉できない
2018年10月に、団体交渉を拒否した放送局の行為を、「不当労働行為」と認定した中央労働委員会の判断について、最高裁は支持する判断を下しました。
この事件の発端は、2011年にさかのぼります。集金を担当する地域スタッフでつくる労働組合との団体交渉に応じなかった放送局に対して、組合は労働委員会に救済を申し立てたのです。結果、大阪府労働委員会も中央労働委員会も不当労働行為と認定しました。しかし放送局は、この判断を不服として裁判所に訴えました。
この判決のポイントは、業務委託契約を結ぶ地域スタッフが労働組合法上の労働者に当たるのかどうかでした。
そもそも労働組合法では、「労働者」が主体となる団体または連合体と規定されているので、「労働者」でなければ、その団体も労働組合と認められないのです。当然、使用者側が正当な理由がなく拒むことのできない団体交渉権も「労働者」でないと認められなくなってしまうのです。
そのため労働問題では、「労働者」であるか否かについて、これまで何度も争われてきた歴史があります。
労働者の要件は3つ
労働組合法は、第3条で「賃金、給料そのほかこれに準ずる収入によって生活する者」と「労働者」を広く定義しています。これは労働基準法の「労働者」の定義「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と比べてもやや広い定義になっていることがわかるでしょう。
労働組合法における「労働者」の具体的な要件は、基本的な判断要素として、次の3つがあります。
①業務組織への組み入れ
②契約内容の一方的・定型的決定
③報酬の労務対価性
さらに補充的判断要素として、①業務の依頼に応ずべき関係、②広い意味での指揮監督下の労務提供、この2つが要件として認められています。この2つの要素などを総合的に判断し、「顕著な事業者性」がない場合は、労働組合法の「労働者」と認定されるのです。

プロ野球選手もオペラの合唱団員も「労働者」
今回の事件でいえば、事業継続に不可欠な労働力として原告の事業組織に組み込まれていること、契約内容の重要部分が放送局側により一方的に決定されていること、報酬が労務提供の対価であったことなどが裁判所によって認められています。
さらに、目標達成に向けた事細かな指導などによって、「業務遂行が原告の相当程度強い管理下におかれていること」なども、労働者と認める要因となったようです。
過去の判例においても、司法は労働組合法上の労働者性について、労働者保護の観点から比較的広くとらえていることがわかります。例えば2011年4月には、1年間の出演基本契約を結んでいたオペラの合唱団員について、出演契約の内容が一方的に決定され「契約メンバーの側に交渉の余地があったということはできない」といった理由などから「労働者」と認めています。
過去の判例では、コンビニのオーナーや自分でコンクリート・ミキサー車を所有している運転手なども「労働者」として認められているのです。
変わったところでは交渉に代理人を付ける制度があるプロ野球選手も、個人事業主ではありますが、日本プロ野球選手会という労働組合を持つ「労働者」です。
労働者であるかどうかは、偽装請負などで労働基準法との絡みで論じられることも多い問題ですが、労働組合法上も重要な争点となっています。労働問題を考える上では、無視することはできない論点といえるでしょう。