公務員の懲戒処分には、戒告、訓告、減給などがあります。そうした処分のうち最も重いのが免職です。では、免職処分はどこまで認められるのでしょうか?参考になりそうな判決を取り上げてみました。
- 横領は認めたけど……
- 公務員の懲戒免職は秩序維持のため
- 隠蔽工作に対する判断は?
- 時代によって罪の重さも変わる
横領は認めたけど……
2015年1月、鳥取地方裁判所は元鳥取県職員の懲戒免職処分を取り消しました。
原告である元県職員は2010年2月と6月、2回にわたり公務に使うべきタクシーチケットを私的に使用。合計9590円を横領したとして、県の内部規定に従い懲戒免職となりました。この処分が重すぎるとして、元県職員は県に処分の取り消しを求めていました。
まず、原告の行為を「業務上横領に該当する」として、鳥取地裁は違法行為を認定しています。つまり不法行為そのものは認めたわけです。
それでもなお処分を取り消した理由について、判決は「更正の機会を与えることなく直ちに懲戒免職としたことは重きに失する」とし、今回の処分は「裁量権を濫用した違法な処分である」との判断をくだしたのです。また、「免職は非常に重大で、職員の責任が相当程度重い場合に限って許容される」と免職の基準を示しました。
さらに原告には20年以上も懲戒処分歴がない上に、勤務状況も大きな問題がなかったこと、損害額が比較的低額で弁償に応じたことも裁判長は言及しています。
公務員の懲戒免職は秩序維持のため
そもそも公務員の懲戒免職は、秩序維持のためにおこなわれるものです。
1977年12月20日の最高裁判決では、「国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため科される制裁である」(神戸全税関事件)と、懲戒免職を定義づけています。
このような観点から考えれば、今回の懲戒免職が秩序維持の範疇を超えている、と判断したのでしょう。
そもそも懲戒処分は強い権限を持つ雇用主側が発するものであり、無条件に認められているわけではありません。労働契約法15条にも、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と記されています。
隠蔽工作に対する判断は?
ただ、このような法的な規制がありながら、あえて鳥取県が懲戒免職に踏み切ったことには理由があります。
2010年、新聞記者からの「1万円に満たない金額で懲戒免職ということについて、県民の感情としてそこまで厳しい処分を望んでいるのだろうか」といった質問に対して、当時の知事は次のように答えています。
「(第三者委員会における)その議論の過程でひとつ重視をされましたのは、タクシーチケットの改ざんをしているんですよね。それは何のためにやったのかというようなことがあります。そういういろいろな金額以外の様相もございまして、性質として懲戒免職もやむを得ないのではないかという議論が大勢であった」
ただ、このような県側の主張に対しても、今回の判決は「私的使用が発覚すれば懲戒免職を受ける職場だったことに照らすと、隠蔽せず誠実に対応することを期待するのは酷な面がある」と断じています。
時代によって罪の重さも変わる
罪の重さと刑罰の重さは、常に社会的なコンセンサスが必要とされます。自分または配偶者の直系親族を殺した場合に適用されていた尊属殺人罪が刑法から削除されたことなどは、時代の流れとともに罪に対するコンセンサスが変化してきた証拠ともいえるでしょう。
たとえ違法行為があったとしても、その行為が「社会通念上相当」と認められる処分なのかを、雇用主側も被雇用者側も考える必要があるということでしょう。