自分に優しくできない理由と対策――セルフ・コンパッション――

自分に優しくすることが心理的に重要だとわかっている人は増えてきています。一方で実践は難しいと感じる人も多いようです。そこで難しく感じる心理的な原因と、その対策をまとめてみました。

  • 自分を愛すことでさまざまな効果が
  • セルフ・コンパッションを高められない3つの理由
  • 自分に優しい言葉をかけたい4つのシチュエーション

自分を愛すことでさまざまな効果が

「自分に優しくしよう」「自分に慈しみを持って接しよう」、もっと専門的に「セルフ・コンパッションを高めよう」といったアドバイスを受けたことはありませんか? 自分への慈しみを意味する「セルフ・コンパッション」を高めることは、心理学的にいろいろなことに有効だと判明しています。幸福感が高まったり、ストレスが軽減したり、自分に嘘偽りなく生きられるようになったり、成長への意欲が高まったり、先延ばし癖が改善したりといったことが起きると言われています。
なかなかの万能ぶりに驚くかもしれませんね。自分に優しくするだけで、これだけの効果が得られるならラッキーと考える人もいるでしょう。しかし実際のところセルフ・コンパッションを高めるのは、簡単ではないようです。

まず「自分に優しい」という基準がわからない人も多いでしょう。そんなときは、失敗した後の独り言に注目してみましょう。もし自分を責めているようであればセルフ・コンパッションは高くありません。というのもセルフ・コンパッションが高い態度とは、親しい友人と同じように自分を扱う感じだと言われているからです。

失敗で落ちこんでいる友人に、「自分の能力が低いからだろ」とか「そんな失敗をするなら死んだほうがマシだよ」といった辛辣な言葉をかける人はあまりいないでしょう。しかし自分に対しては、このような態度を取りがちで、それは独り言によく表れます。自分に厳しいタイプの人は、長時間にわたって無意識の独り言で自分を責め続けることすらあります。それがメンタルヘルスを悪化させる原因になるほどです。

セルフ・コンパッションを高められない3つの理由

では、どうしてセルフ・コンパッションを高めるのが難しいのでしょうか? その理由を3つ紹介しましょう。

① 自分を慈しむことをネガティブに感じている
セルフ・コンパッションや慈しむという単語だとあまり拒否感を覚えない人も、自己憐憫や自分への憐れみといった言葉になると、どうも受け付けないと感じてしまう人もいるでしょう。

その根幹には、自分に同情的だと、自分が弱くなってしまうといった思い込みがあったりします。また自分を慈しむことはナルシストにつながると考えてしまう人もいるようです。それは幼少期からの教育の結果であったりするため、意外なほど強固な思い込みになっていたりします。

こうした思い込みを外していくためには、まず自分の思い込みに気づく必要があります。そのうえで、自分に同情すると自身の心が弱くなるという思考が、 間違った思い込みなのだと理解してほしいのです。

セルフ・コンパッションを高めると、心理的なショックに強くなることが知られています。また先にも触れた通り、セルフ・コンパッションが高ければメンタルヘルスも良い状態に維持できる可能性が高まるので、結果的に自分の心を「強くする」ことにもつながります。
このような知識を得た上で、やってほしいメソッドがあります。それは「今日の気分はどうだろう? 自分を助けるために何ができるだろう?」と日々自分に問いかけること。こうした質問を繰り返すうちに、例えば「今日は疲れが溜まっているから、今晩は早く寝よう」といった自分を慈しむための行動が生まれてくるそうです。無意識に動いていると、ついつい自分に厳しくなってしまうので、自分への問いかけを習慣化してみましょう。

② セルフ・コンパッションに恐怖感を抱いている
「自分に優しくしたら成功が遠のいてしまうのでは」とか、「自分に厳しくしないと人から愛されないかも」といった思いから、セルフ・コンパッションへの取り組みに難色を示す人もいます。自分に優しくなることで、自分の心の蛇口が開いて、自分に対処できない感情が溢れてしまうかもと感じる人もいるそうです。また、自分より他人の気持ちを優先しすぎた結果、自分の気持ちを見つめることすら、自分が嫌われることにつながると思ってしまう人もいるそうです。

こうした心理への対処法の一つは、親友にかけるような優しい言葉を自分に語りかけ、自分の感情がどのように動くのか観察すること。セルフ・コンパッションに恐怖感を抱く人は、自分の気持ちを感じることに慣れていないケースも多いので、それを観察することで恐怖感が薄まる可能性があるそうです。

③ 自尊心が低く、自己批判的
自己批判が当たり前になっている人は、自分を慈しむことが恥ずかしいと感じてしまうケースもあるそうです。そうした人の場合は、まず自分を愛することに慣れる必要があります。

今の自分を友人に置き換えたとき、自分はどんな表情で、何を語るのだろうと考えて、その回答を自分に試してみましょう。慣れないうちは不快だと感じることもあるかもしれませんが、練習することで自分を慈しむことに違和感がなくなります。自分をなだめるように、根気よく自分に声をかけ続けましょう。

自分に優しい言葉をかけたい4つのシチュエーション

自分を愛することに慣れていないと、どのタイミングで自分に優しい言葉をかけていいのかが分からないものです。特に追い詰められた心境だと、人は自分を責めがちです。だからこそ、どんなシチュエーションのときに、自分に優しい言葉をかけるべきなのかを知っておきましょう。

① 努力しているのに成果がでない
自分のことを責めがちなシチュエーションです。思ったような成果が出ないと、まだ努力が足りない、たるんでいるといった罵詈雑言を、自分に浴びせがちです。

もちろん自分の定める成功までは達していないのかもしれませんが、努力していることは事実です。そこを自分自身で認め労ってこそ、その先の目標に動き出す気力が湧いてきます。

② 他人と比べて落ちこんでいる
他人と比べても仕方ないと分かっていても、ついつい比べて、自分に酷い言葉をかけてしまうケースは少なくありません。そんなときこそ、自分に優しい言葉をかけてあげましょう。

③ 問題解決の方法がわかっているのに動けないとき
問題解決の方法がわかっていても、動けないことがあります。それは仕方ない面もあるのですが、そんな自分を許せないと感じてしまうことは少なくありません。先延ばしや逃避といった行動は、自分を責めるとひどくなるという説もあります。そんなちょっと頼りない自分を許してあげるためにも、自分に優しい言葉をかけるようにしましょう。

④ 自分のルールを破ったとき
自分に課したルールを破ってしまったとき、自分を攻撃してしまうことがあります。しかし、そうした行動は、もうどうなってもいいといった感情を引き起こしかねません。改めてルールを守れるようになるためにも、自分に優しい言葉をかけましょう。

今日はセルフ・コンパッションを高めるために障壁となる心理や、その対処法などをまとめました。すぐに改められないかもしれませんが、メンタルヘルスを高めるためにも、セルコンパッションを意識して生活してみましょう。

心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。

監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会

参考:「20 Uses for Self-Compassion」(Alice Boyes/Psychology Today )/「Recognizing Our Barriers to Self-Compassion」(Bernard Golden/Psychology Today )

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