「ゲシュタルト崩壊」という単語をネットで見かけたことはありませんか? 「意味がわからなくなった」といった意味で使われていることが多いようですが、本当は不思議な知覚現象なのです。どんなものなのか、わかりやすく解説していきましょう。
- 見続けるとバラバラに
- まとまりと感じる法則
見続けるとバラバラに
そもそも「ゲシュタルト」は、ドイツ語で「かたち」や「全体性」を意味する単語です。そして「ゲシュタルト崩壊」を報告したのは、ドイツの神経学者でC・ファウストでした。
もしかしたら読者も経験あるかもしれませんが、図形を見続けると全体的まとまりをなくしてしまう現象を「ゲシュタルト崩壊」と、ファウストは説明したのです。
現在では、こうしたゲシュタルト崩壊が図形や文字だけではなく、音楽などの聴覚情報にまで起きることがわかっています。
そして「ゲシュタルト崩壊」の一例として、Webなどでよく取り上げられているのが「文字のゲシュタルト崩壊」と呼ばれるもの。「反復指示による漢字のゲシュタルト崩壊」(行場次郎)によれば、約25秒同じ漢字を見続けると、ほぼ50%の確率で漢字がばらばらになったように知覚されるそうです。
かなりの確率でバラバラに感じたことがわかるでしょう。
また崩壊したなと感じるまでの時間は、漢字の画数などに大きな影響を受けないそうです。しかもそうした崩壊は、漢字の部分部分は認識されているのに、全体としてのまとまりを失ってしまうものとのこと。
そのため「ゲシュタルト崩壊」は、長時間、見続けた眼の疲労から起きるものではないと考えられています。眼の疲れが原因だとすれば、漢字全体が見えなくなる可能性が高いからです。
しかも「ゲシュタルト崩壊」しやすい文字までわかっています!
2011年版の『知恵蔵』(朝日新聞出版)によれば、「借、多、野、今、傷、ル、を」がゲシュタルト崩壊しやすいとのこと。
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どうでしょうか?
じっと見つめていると、「借」の全体像が崩れるように感じてきませんか?
まとまりと感じる法則
先に説明した通り、「ゲシュタルト崩壊」はじっと見つめることで、まとまっていたものがバラバラに感じてしまう現象でした。
では、そもそもまとまりと感じるのは、どうしてなのでしょうか?
20世紀前半に活躍したゲシュタルト心理学者たちは、どうした状態がまとまってみえるのかを研究しました。これは「ゲシュタルトの法則」としてまとめられており、デザインなどでは基礎的な知識となっています。
いくつか御紹介しましょう。
近接の法則
これは近くにあるものを、まとまって認識しまう法則です。
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簡単な図ですが、上記のような図は2つのグループと認識されます。
また、上気のような群衆は、近くにいる人を同じグループと認識します。
距離はまとまりを生み出してしまうというわけです。
類同の法則
色や形が似たものはまとまって見えるという法則です。
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上気の図も自然に3つのグループと感じてしまうのではないでしょうか?
形や色は同じグループとして認識しやすくなるのです。
見つめ続けるとバラバラになったり、距離の近さで同じグループと感じたり。こうした不思議な認知の問題を研究するのも心理学なのです。
そんな人間の心理に興味のある方は、こちらもクリック。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『心理学ビジュアル百科』(越智啓太 編/創元社)/「持続的注視による漢字認知の遅延」(二瀬由理・行場次朗)/「漢字のゲシュタルト崩壊現象とは何でしょうか?」(日本心理学会)