虚しいと思うことは誰にでもあるでしょう。生きる活力が奪われていくような感情だけに、こみあげる虚しさをどうしたらいいのかわからない人も少なくないかもしれません。そこで国内外の心理学の研究から、虚しさ対策をまとめました。
- メンタルヘルスの問題に広く関わる「虚しさ」
- 虚しさが持つ4つのポイント
- コアバリューに沿って生きる
- 虚しさを軽減する3つのステップ
- 強い虚しさを感じたら病院に
メンタルヘルスの問題に広く関わる「虚しさ」
誰でも感じた経験があると思われる「虚しさ」ですが、心理学的にはちょっとやっかいな感情のようです。というのもメンタルヘルスの問題との関係は、さまざまな形で知られているものの、虚しさを感じるからといってメンタルヘルスに関わりがあるとはいえないからです。
少し具体的に書いていきましょう。
例えば境界性パーソナリティ障害の判断基準の一つには「慢性的な空虚感」があり、PTSDの発症のしやすさや自殺の理由、摂食障害やアルコール依存とも虚しさの関りが指摘されています。
しかし虚しいからといって、必ずしもメンタルヘルスに問題を抱えているわけではありません。
だからこそ虚しさについて考えるなら、それがどんな心理を示すのかをとらえるところから始める必要があるのです。
虚しさが持つ4つのポイント
ショーナ・ジョイス・ヘロンとファビオ・サニは、虚しさを感じる当事者240人の声を集め、虚しさがどんな状態や感情なのかを明らかにしました。いくつかのポイントを簡単に説明していきましょう。
①感情と目的の欠如
「疲れ果てて感情がない」「人生の目的や意味を感じられない」と感じ、内面が空虚なまま自動操縦で動いている感覚になっている。
②他人とつながらない孤立感
他人に与えるモノが何もなく、他人に迷惑をかける存在であり、自分の存在は他人から認識されていないと感じる。強い孤立感があり、自分はドアマットのような消耗品だと思ってしまう。
③世界との断絶
すべてから離れて孤立していると感じるだけではなく、自分と世界の間には霧やベールなどの障壁があったり、裂け目が横たわっていると感じる。さらに、外の世界が自分から遠く離れていることもあるという。自分が泡に閉じ込められているように感じる人もいる。
④胸の不快感
身体的には痛みや虚脱感をともなうことがあり、胸の奥の不快感を訴える人が多い。
虚しさの感じ方は人によって違うものの、上記のようなポイントは一致することが多いようです。
コアバリューに沿って生きる
臨床心理学者のマイケル・フリードマン博士は、虚しさを感じる原因として、「社会的に孤立しているケース」や「好きなことができないケース」「ひどい環境から逃げ出せないケース」などがあると指摘。「虚しさ」は自分の周りの環境が悪く、人生の目的・目標と一致してしないときに発せられるサインだと説明しています。
これは先に書いた「目的の欠如」とつながるものでしょう。積極的に人生を送れなくなり、具体的な問題を抱えていないのにセラピーを受ける人多くは、コアバリュー(基本的価値観)と切り離されていることが多いと、英国の心理学者ジェリー・スミス氏は指摘しています。
「自分にとって最も重要なことから切り離さされた人生を彼らは送っている」(『メンタルマネジメント大全』ジェリー・スミス/河出書房新社)
という解説は、虚しさが人生の目的・目標と一致してしないときというフリードマン博士の解説とも一致します。
だからこそ虚しさを感じないようにするためには、どんな風に生きたいのか、どのような人になりたいのかを考え、その「道」から外れないように、つまりコアバリューに沿って生きることが大切なのだそうです。またコアバリューは時とともに変化していくので、定期的に自分にとって何が大切なのかを見直すことも重要です。
虚しさを軽減する3つのステップ
では虚しさに対処するためには、どうしたらいいのでしょうか? 順番に紹介していきましょう。
①虚しさを観察する
こうしたネガティブな感情への対処は、避けるのではなく受け入れることが基本です。というのも避けたり、胸の奥にしまい込もうとすると、ますますそれに注意が向いてしまうからです。
むしろ虚しい状態をしっかり観察しましょう。どんな気持ちで、体にどんな影響を与えているのかを細かく観察することで、その感情の猛威は収まっていきます。
最もよくないのは、虚しさから目をそらすためにムチャをすること。お酒を浴びるように飲んだり、ジャンクフードを大量に食べたり、不適切な性的関係を持つといった行動は、状況をより悪化させます。
②なぜ虚しいのかをストーリーとして書き留める
いま感じている虚しさと関連する経験、人生から切り離されてしまったと感じる損失や失望、充実感のない人間関係、あるいは虚しさを生み出す心身の健康状態について、物語風に書いてみましょう。そのストーリーが当たっているのかどうかは問題ではありません。自分にとって現実的だと感じられるかどうかが重要です。
③虚しさを軽減する行動を試す
以下のリストを参考に、自分にあった虚しさへの対処法を見つけましょう。
体を動かしたら虚しさが消えたという人もいれば、マインドフルネスで状況が改善したという人もいるでしょう。重要なことは、試してみることです。
1.人とつながる時間を増やす
孤独と虚しさに密接な関係があることは、すでに説明しました。人とつながりを取り戻すことで、虚しさが軽減するようです。
2.マインドフルネスを習慣にする
マインドフルネスで虚しさを見つめ直し、虚しさをそのまま受け止めることで、感じ方が変わってくるかもしれません。
3.目標を立てて行動する
コアバリューに基づいた目標を立てて行動してみましょう。できれば測定可能な目標を立てて、自らの生活を見直し、自分の成長を実感できるとよりいいでしょう。
4.オフを充実させる
ただダラダラとすごしていたオフを、楽しくて充実感のある活動に費やしましょう。最初は「何となく面倒だ」と思うことも多いでしょう。しかし実際にやってみて、その楽しさや気持ちよさを実感すると、より充実した時間を過ごしたいと思うようになるでしょう。
5.自分について知る
性格テストを受けたり、自分のような性格の人がどんな行動するのかを学んだりすることで、より正確なコアバリューを見つけることができるかもしれません。
6.誰かに貢献する
ボランティアや社会的な活動は、人とのつながりを生むこともあり、虚しさを軽減させる可能性が高い活動です。そこまで大げさなものでなくても、友人や同僚を助けたり、寄付をするといった行動もプラスの効果を生むかもしれません。
強い虚しさを感じたら病院に
人生を変えるサインとして虚しさを読み解くことは、もちろん推奨されるべきでしょう。ただし慢性的に虚しかったり、我慢できないと感じたら、精神科医やカウンセラーを訪ねましょう。
冒頭にも書いた通り、虚しい気持ちがメンタルヘルス不調に関わることもあります。そうしたケースはプロにみてもらう必要があります。
心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『メンタルマネジメント大全』(ジェリー・スミス/河出書房新社)/「Understanding the typical presentation of emptiness: a study of lived-experience」(Shona Joyce Herron & Fabio SaniORCID)/「How to Cope With Emptiness: 10 Ways to Fill the Void」(Hailey Shafir/Choosing Therapy)/「『むなしさ』に関する研究の概観と展望」(大上真礼)