パワハラする人の性格的な特徴を知っていますか? パワハラしやすいタイプが職場にいると、環境の変化でパワハラを始めてしまう可能性も……。パワハラしやすいタイプと環境を『パワハラ上司を科学する』(津野香奈美/ちくま新書)で学び、対策を立てましょう!
- パワハラしやすい人かをチェック!
- 権力を握るとイヤな人間に
- 誠実でもなく協調性も低い
- 自分で気づくのは難しい
- パワハラをしやすい人って?
- こんな職場が危ない
パワハラしやすい人かをチェック!
どんな人がパワハラにはしりやすいのかを知っていますか? 最近、メディアでも注目の研究者、津野香奈美・神奈川県立保健福祉大学大学院 准教授の最新書籍から説明していきましょう。
本書の目的は、「この世から、誤った部下対応をしている上司や先輩を一人でも多く減らす」こと。つまり、「もしかしたら自分はパワハラ体質なのか?」と感じている人にピッタリな本です。ただ、それだけではなく「いまはパワハラめいた言動はないけれど、同僚や上司になんか引っかかり」を感じている人、実際にパワハラを受けていて、どんな性格ならこんなことをするのかと思っている人にも参考になる情報が満載です。
まず、次の質問に答えてみてください(周りにいる人がパワハラ気質かを知りたいときは、本来の使い方ではありませんが、その人の普段の言動を思い出しながらチェックしましょう)。
□ 日頃、他の人に対してイライラすることが多い
□ 自分は仕事ができる方だと思う
□ 努力しない者は、怠け者であると思う
□ 部下が突然泣いたり、反抗したりして驚くことがある
□ 時々、不安に駆られることがある
□ ついカッとなることがある
□ これまでに、自分の指導がきついと言われたことがある
□ 部下の感情や気持ちがよくわからない
□ 最近ストレスが溜まっていると思う
上記の質問に3つ以上当てはまる場合は、「パワハラを行うポテンシャルが高い」そうです。現在パワハラをしていなくても、ポテンシャルが高い人は、ストレスや不安が高まった時に、パワハラをするリスクがあります。
それにしても「3つ以上」というハードルは意外に少ないと思いませんか? やはりパワハラをする可能性のある人は、私たちが思っている以上に多いのかもしれません。
権力を握るとイヤな人間に
では、実際にどんな人がパワハラをしているのでしょうか?
本書では、この問いにもかなり明確に答えています。まず「行為者の7割が『上司』」だそうです。その背景には、同僚からのパワハラを認めたくないという意識もあるようですが、権力を手に入れたり、社会的な地位が高くなることで、パワハラしやすい心理状態にもなるそうです。
以下は権力を持ったときの行動や気持ちの変化です。
・ある程度、自分の思い通りになる力が手に入る
・慈悲や同情の気持ちが減る
・権利意識や自己利益について意識が強くなる
・周囲の人の不利益を顧みなくなる
・部下の感情を適切に読み切れなくなる
地位が上がるだけで、これだけ変化してしまうことに驚きますが、逆にこれだけ変化が起こるなら、上司になってパワハラをする人が増えても不思議ではないかもしれません。
また、女性よりも男性の方がパワハラをする傾向が強いそうです。
誠実でもなく協調性も低い
さて、本書によればパワハラをする人は、性格特性として協調性と誠実性が低いことが研究でわかっているそうです。
「外向的で一見人当たりが良さそうでも、本当の意味で人(相手の幸せや要求)に関心がなく、自分の欲求を満たすという自己利益を優先させる、つまり利己的で他者を利用する傾向が高い」
まとめると上記のようなタイプは要注意だそうです。
しかも、このタイプはいじめる人と被ると津野准教授は説明します。これは「そうだろうな」と納得する人も多いでしょう。さらに、ちょっと怖い現実も本書は指摘します。
「学校のいじめと同じで、ある特定の人(部下)に対してはひどいことをしていても、本人は外向性が高く社交的なので、上層部から評価されやすい傾向にあります」
学校でのいじめを思い出すと、パワハラをする人の立ち振る舞いが理解しやすくなるでしょう。また学生時代にいじめをしていた人は、状況によってはパワハラをする可能性があるかもしれません。大人になって他人をいじめた過去を口にする人は、それほど多くないと思いますが、そんな話を耳にするようであれば警戒すべきでしょう。
自分で気づくのは難しい
本書では、パワハラを含めた周囲に悪影響を及ぼす邪悪な特性「ダークトライアド」も紹介しています。それは、マキャベリズム、サイコパシー、ナルシズムの3つの特性から構成されている特質とのこと。
これだけではわかりにくいので、3つの性格特性を、それぞれ簡単に紹介していきましょう。
マキャベリズム……目的のためには、手段を選ばない。
サイコパシー……良心が異常に欠如している、他者に冷淡で。共感しない、慢性的に平然とウソをつく、罪悪感は皆無だが、口が達者で表面的には魅力的。
ナルシズム……「自分は特別で重要な存在である」と誇大な感覚を持つ。
この「ダークトライアド」の特性を持つ人は、行動変容を促すのが容易ではないことも知られているそうです。
こうした傾向を持つ人を見極めるには少なくても次の3点を、その人と一緒に仕事をした経験のある同僚や後輩、部下からヒヤリングするのがいいそうです。
①目的のために手段を選ばない傾向があるか
②他者への共感力や良心が異常に欠如していないか
③これまでに人をタダ働きさせたり、人の手柄を横取りするなど、他者を不当に利用したことがなかったか
「ダークトライアド」を持っている人は知性や外見的な魅力を持ち、組織の中でリーダー的ポジションを獲得しやすいそうです。また他者を蹴落としても目的を達成する人を評価する組織では、こうしたタイプの人が活躍する傾向が高くなってしまうそうです。
こうした人への対処法として、「『(パワハラしている本人が)自分で気づいてもらう』という方法は真っ先に外すべき選択肢」と本書は指摘します。
「ダークトライアドのような邪悪な性格特性を持ち、人の痛みを理解するのが難しい人に対して『人の痛みに気付いて下さい』と言ったところで、何の効果もありません」
だからこそ、こうしたタイプのパワハラ行為を止めるためには、文章で注意を行う必要があるそうです。組織として文章で注意するまでできない場合は、気づいた周囲の人が声を出して指摘することが有効とのこと。
「一人から何か指摘されても多くの人は気に留めないものですが、3人以上から同じことを指摘されるちょっとさすがに『もしかして、自分の言動は問題なのか?』などと問題意識を持ち始めるようになります」
このような指摘は、パワハラに悩んでいる人の解決策の一つになりそうです。
パワハラをしやすい人って?
本書ではパワハラの心理的な原因にも言及しています。ポイント5点を簡単に説明していきましょう。
①自尊心が不安定に高い
パワハラをする人は、精神的に不安定であり、何かを批判されたときにそれに冷静に対処することができないとのこと。「攻撃的なのに、批判に弱いの?」と思うかもしれませんが、不安を感じるからこそ自尊心が傷つくのを恐れて、自分を守るために他者を攻撃してしまうのです。
②感情知能が低い
対人関係を構築する機能が低いため、怒りの感情のコントロールが苦手で、それゆえ部下を怒鳴ってしまうのだそうです。
③自分の言動の影響を認識できない
自分の行動が周りにどのように捉えられるのかを想像できないため、他人に無配慮となり、それがパワハラに繋がっているそうです。
④他者に対する期待水準が高い
自分に厳しく、「~すべき」といいう価値観を多く持っている人は、パワハラしやすいとのこと。
⑤「厳格な親」タイプ
「ルールを守りなさい」「不正をしてはダメだ」といった社会の秩序やルールを厳しく求める人もパワハラをしやすいタイプと書いてあります。
こんな職場が危ない
□ 仕事量は多いのに、裁量権が低い
□ 上司や同僚に気軽に相談できない
□ 明文化されていないルールが多い
□ 長時間労働が当たり前の職場である
□ 従順さが求められる
□ 従業員同士の団結力や連帯感が強い
□ 職場のメンバーに多様性がない
□ 役割葛藤や役割の曖昧さを感じることが多い
□ 冗談やからかいが日常的に見られる
□ ハラスメントを容認する風土がある
□ 体育会系の競技出身者が多い
□ 感情を抑制し、力を誇示することが求められる
□ 上司や先輩の言うことは絶対だ
上記のリストのうち2つ以上当てはまれば、パワハラが起きるリスクがあり、5つ以上なら危険性がかなり高い職場となります。
上記のリストに当てはまる項目が多いなら、長期的に働き続けられるのかが不安になりますよね。
そして最も怖いのが、この文章の2つのチェックリストで両方とも当てはまる数が多かった人でしょう。今はパワハラを行っていなくても、あるいは実際にはパワハラまがいの行為をしているのに問題になっていなかった人も、パワハラの事件を起こしてしまう可能性があるからです。
本書は「パワハラ上司」にならないための方法も、しっかりと書いているので、危ないと思ったら本書でしっかりと内容を確認すべきでしょう。またパワハラする人を、もっと理解して対策を立てたい人も、このページはごく一部をまとめただけなので、本を一読した方がいいでしょう。
企業におけるパワハラ対策はどんどん進んでいます。今まで事なかれ主義でパワハラを黙認してきた企業でも、しっかりとした処分を実施する傾向になってきています。「自分としては指導のつもりだった」という言い訳は通用しなくなっているのです。
思い当たる人は、損害賠償を支払い、職を失うことが無いように、自分の行動を改める必要がありそうです。
ハラスメント被害者の援助に興味のある人は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『パワハラ上司を科学する』(津野香奈美/筑摩書房)