どうしたら幸福になるのか。これはなかなか難しい問題です。というのも、どんなに素晴らしい生活であっても、いつか人は飽きてしまうからです。飽きないためには「快楽適応」のシステムを知り、満足度を底上げする必要があるのです。
- 幸福度は同じレベルに戻る
- 幸福感を長持ちさせる2つのメソッド
- 満足度を上げる4つの方法
幸福度は同じレベルに戻る
購入した新製品や新車どころか自宅でさえ、人は時間とともに慣れてしまいます。物質だけではなく、新婚生活なども時間とともにワクワク感は消え失せ、味気ない日常になってしまいがちです。
心から望んでいたはずなのに、手に入ってしまうと飽きてしまう。こうした心理現象を、心理学者のシェーン・フレデリックは「快楽適応」と名付けました。ほとんどの人は、こうした心理を体験したことがあるでしょう。
人の幸福度は、驚くほどの幸運が舞い込んでも、逆に不幸に見舞われても、幸福のベースラインに戻る傾向があります。もちろんすべての人がベースラインに戻るわけではありません。ただ一般的には、静かにベースラインの幸福度に帰っていく傾向にあるのです。
こうした心理の原因には、激しい感情がストレスにならないようにするためであるとか、生命維持に直接かかわりないことに集中し過ぎないためといった説があります。確かに睡眠や食事よりも購入した車に夢中になり続けたら、健康を害してしまう可能性が高そうですね。生命維持意外に夢中になる過ぎるのは、文明を築く前の人間にとって大きなリスクだったのでしょう。
一方で「快楽適応」は人類が発展してきた原動力とも言えるものです。ただ個人としてはやっかいな側面があります。満足し続けることがないとわかっていて努力をし続けるのは、モチベーションの維持も難しくなります。
数ヵ月で飽きてしまう恋人探し、住み始めたら飽き始める自宅の購入、手に入れたらありがたみを感じなくなる新商品購入などなど、こうしたことに労力を費やすことがバカらしく感じてしまう人もいるかもしれません。実際、歴史的にも際限のない人の欲望を捨てようと試みた人は少なくありません。とはいえ断捨離に励み、欲望に振り回されてないような生活に踏み出すのも、一般人の私達には勇気のいることでしょう。
そこで今回は「快楽適応」が発動しにくくなる方法と、生活の満足度をアップさせる方法をまとめてみました。
幸福感を長持ちさせる2つのメソッド
快楽適応のスピードを落とし、少しでも幸福感が長続きするために、どんなことをすればいいのかといったことも、心理学では研究されています。「快楽適応防止(HAP)モデル」を開発した米国ミズーリ大学のケノン・シェルドン教授の論文を参考に、その具体的な方法を紹介していきましょう。
① 感謝をする
感謝の気持ちを持つことで、幸福感は長続きします。これはパートナーとの関係を考えてみるとわかりやすいでしょう。新婚当時のワクワク感もなく、一緒に出掛けても面白くないと感じ始めたときこそ、相手に感謝したいポイントを探してみるべきです。部屋の掃除をしてくれたり、愚痴を聞いてくれたり、たいしたことではないかもしれないけれど、じつは自分にとって大切なものをプレゼントしてくれる存在だとわかると、一緒に過ごす時間の大切さが身に染みてくるでしょう。もちろん感謝は自宅や車、家電といった商品に対しても感じることができます。
もし感謝の種がみつからないようなら、「この人(モノ)がなくなったらどうなるだろう」と考えてみましょう。車がなくなったら休日の買い物は面倒になるかもしれませんし、息抜きのドライブも行けなくなるかもしれません。そうしたことをリアルに想像すると、感謝の念が自然に湧いてきます。その結果として、「当たり前に感じる」「飽きてしまう」といった感情が薄れる可能性が高まります。
ワクワクしなくなったなと感じたら、ぜひ試してみてください。
② 変化を体験する
ワクワク感がなくなり、飽きてしまう理由の一つは変化がないこと。同じ時間に出社して、同じようなメールを送り、先月と同じようなリストを作成する。そうした変化のない仕事が「飽き」を生んでしまいます。一方で、日々の業務をどのように効率化できるのかを考え、いろんなことを試してみれば、仕事への「飽き」を防止できます。
こうした変化を生み出す行動は、快楽適応への有効な対応策だと言われています。例えば自宅を購入したらより住みやすくなる方法を考え、パートナーができたら一緒に楽しめる時間の作り方を相談するなど、変化を生活に取り入れていくことが重要になります。
人間関係については、イベントを設定し、それに向けて一緒に動いていくといったことも有効だそうです。
一方で、飽きたからといって新しい商品の購入で対処しようとすると、一時しのぎとなることが多いと、ケノン・シェルドン教授は注意を促しています。快楽適応が進むのを遅らせるためには、変化を自らの行動で作り出し体験することが重要なようです。
満足度を上げる4つの方法
私たちが幸福を感じるのは、ワクワクしたときばかりではありません。サプライズの喜びが起きなくても、日々の生活に満足していれば、安定した幸福感を抱くことができます。
先程はワクワク感を持続する方法でしたが、ここからはワクワク感がなくても幸福感が高まる満足度の高め方を紹介します。
①感謝
じつは満足度を高めるためにも、感謝は有効です。
感謝していることを毎日3つずつ書き出す感謝日記を付けたり、感謝の気持ちをしっかり表現するようにしてみましょう。感謝できる対象を見つけるだけではなく、感謝の意思を示すことで、感謝の念は強化され、幸福度も上がっていくそうです。
② 自然とのふれあい
自然と触れ合う時間を設けましょう。木々や花などと触れあったり、森林浴なども効果があります。忙しい人は、公園を散歩するだけでも、何もしないのとは違ってきます。
③ セルフケア
心身ともにセルフケアをしましょう。睡眠時間をしっかり確保し、健康的な食事を心がけます。またエステやサウナといった健康に効果のある行動も試してみましょう。
さらに無意識につぶやいている自分を攻撃するような独り言を止めるようにしましょう。失敗したときなど、無意識に「私は本当にダメだ」などとつぶやいてしまうことは多いもの。こうした独り言を意識的にやめましょう。それが心のセルフケアにつながります。
④人生の意味を考える
自分の人生に意味があると思えると満足度は上がります。ただいわゆる「自分探し」が簡単ではないことは、良く知られています。
そこで、まず自分が共感できるものを見つけ、自分の居場所だと感じる仲間を見つけましょう。インドなど刺激のある海外に出かけるのではなく、自分の身の回りで居場所を見つけて、そこで人生の意味を考えてみましょう。日々の生活の満足度が上がる可能性があります。
今日は飽きない幸福を手に入れるための方法についてまとめました。変わりばえのしない日々にテンションが上がらないようなら、気になったものから手を付けてみてはいかがでしょうか? 小さな行動が日々の幸福度を上げてくれるかもしれません。
心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「The Quiet Power of Contentment」(Jessica Koehler/Psychology Today)/「Happiness Model Developed by MU Researcher Could Help People Go From Good to Great」(MU News Bureau)/「27 Real Tips to Improve Life Satisfaction, Wellbeing, Mental Health and the Quality of Life」(Aditya Shukla/Cognition Today)