「もう、飽きた」と感じることは誰にでもあるでしょう。仕事、会議、ママ友とのおしゃべり、時には妻や恋人まで……。そんな「飽きた」のメカニズムと対策を心理学の観点から説明します。
- 人はあらゆるものに慣れる
- 4つの対策
人はあらゆるものに慣れる
そもそも人は飽きる生き物です。単純作業はもちろんのこと、新婚時代の興奮も2年で消えてしまいますし、新しい職についたときのワクワク感も1年でなくなるといった研究さえあります。
心理学では、こうした慣れのことを「馴化(じゅんか)」と呼びます。
現在でこそ“やっかい者”に思える「馴化」ですが、じつは人や動物の安全を守る機能なのです。例えば少し離れた道路の車の音にいちいち驚いていたら、日常生活に大きな影響が出るでしょう。あるいは妻の美しさを見るたびに、ドキドキと心拍数が上がり続ける。こんな生活を20年も続けていたら、健康を害する可能性がありそうです。
だから人はあらゆるものに慣れてしまうのです。
逆に人は、新しいものに興味を持ち続ける性質も持っています。これは厳しい環境で生き抜くために獲得したものです。食料が少ない自然界で生き残るには、いつでも生きるための資源を探すような進化が求められたのです。
心理学者のサラ・トムリーは著者『毎日使える、必ず役立つ心理学』(河出書房新社)の中で次のように書いています。
「私たちの視力は、さらなる資源の発見を(無意識のうちに)永遠に求めるように作られている」
つまり「慣れ」との闘いは、人間の本能との闘いでもあるのです。
4つの対策
では、どうすれば飽きることなく新鮮な気持ちを維持できるのでしょうか? 具体的な対策法を紹介していきましょう。
①目標を設定する
やや努力しないと届かない具体的な目標を設定することで、新鮮味のない単純作業などが輝きを取り戻します。例えば何となくやっていた作業を、何分以内に終わらせると決めれば、作業をどうすれば効率化できるかといったことにも目を向けるようになります。
さらに、目標を達成したときのご褒美も用意しておくといいでしょう。
「自分で目標を設定しても……」と思う人もいるかもしれませんが、大阪大学の三浦麻子教授は、次のように書いています。
「目標を設定するのが実験者であるか、被験者であるかということはパフォーマンスに影響をおよぼさない」(「課題遂行におよぼす目標設定と自立性の効果」)
仕事などに「飽きた」と感じてしまったら、まず目標を立てて挑戦してみましょう。思った以上に成果があるかもしれません。
②違う方法で取り組んでみる
どんな刺激だと人は慣れてしまうのかについては、一定の法則が見つかっています。最も慣れやすいのは弱い刺激が継続的に続くケースです。電車で揺れが眠気を誘うのも、刺激が繰り返されることで刺激を感じなくなってしまう馴化(慣れ)によるものだと言われています。
逆に同じ作業でも新しいやり方で取り組めば、脳が新しい刺激と捉えるので新鮮味が戻ってきます。しかも、これまでのやり方を封印すると、時間の経過とともに「慣れ」を忘れ、久しぶりにやってみると、かつての興奮を思い出す可能性もあるのです。
消防士の教育訓練などでも、同じパターンの訓練にならないように気を付けるべきだと、「消防活動における安全管理に係る検討会」でも提言されています。作業のプロセスが自由であるなら、これまでにないアプローチを試してみるのもいいでしょう。
③ワクワクした時間を思い出してみる
ブリティッシュコロンビア大学のエリザベス・ダン准教授が書いた『「幸せをお金で買う」5つの授業』 (中経出版)には、ミシガン大学の研究者が発表した面白い実験が紹介されています。
車の所有者に、調査日からさかのぼって最後に運転した日、どれだけ楽しかったのかをたずねたのです。実験参加者の車は、400ドルから4万ドルと開きがありましたが、ドライブの楽しさと車の値段には相関関係がありませんでした。
日々使っていれば、ただの道具。新車で届いたときの興奮は感じられなくなってしまっていたのです。しかし高級車に乗る楽しみを思い出す方法を、この実験は教えてくれました。
「ミシガン大学の研究者たちは最後に、直近で楽しみのために自分の車を運転したときのことを自動車のオーナーたちに思い出してもらいました。すると、より高価な車を所有している人々は運転によってより多くの喜びを得たと答えました」(『「幸せをお金で買う」5つの授業』)
ポイントは楽しんでドライブした日を思い起こした点です。前に質問した「最後に運転した日」は道具として車を使っていただけですが、車の魅力を体感したときを思い出せば忘れていたワクワク感も取り戻せるというわけです。「やっぱり山道でも快適に運転できるな、この車は!」などという思いは、自分の車の再評価につながりますし、値段相応の価値を思い出すことにもなるのです。
慣れる前のワクワクした時間を思い出して、新鮮な気持ちを取り戻してみましょう。
④感謝する
ミズーリ大学のKen Sheldon教授は、慣れに対抗する方法の1つに「感謝」を掲げました。日々感謝をすることで、「慣れる」までの時間を引き延ばすことができるからです。
これは車などのモノだけではなく、人にも有効な方法です。
「こんなに美味しいご飯を食べられるのは嫁のおかげだ」などと、しっかりと理由をみつけて感謝すれば、いいそうです。
心理学などに興味のある方は、こちらもご覧ください。
「Your Brain Is Wired to Suck the Joy Out of Good News」(Livie Campbell)
『「幸せをお金で買う」5つの授業』 (エリザベス・ダン/中経出版)