説得をしなければならない場面は意外に多いものです。仕事だけではなく、パートナーや子どもを説得する場面もあるでしょう。しかし多くの人は、説得に必要なスキルを知らないようです。そこで知っていれば説得力がアップするスキルを紹介しましょう。
- 「説得」ではなく「押し付け」かも!
- 説得のための4つのプロセス
- 説得のために質問する
「説得」ではなく「押し付け」かも!
まず、自分がどんな説得のスタイルなのかを考えてみましょう。
自分の立場を主張し、その根拠を示して相手に有無を言わせず約束を交わす。そんな説得スタイルは必ず失敗する、とジェイ・オールデン・コンガー南カリフォルニア大学マーシャルスクール・オブ・ビジネス教授は指摘しています。
そうした無茶な説得はしていないと思う人も多いでしょう。
しかし例えば家庭で、次のような会話をパートナーとしていませんか?
「家事の分担がアンバランスだと思うの。買い物の時間まで含めると、私の方が1ヵ月に20時間以上は多くなるかも。あなたもわかっているでしょう。互いに仕事が忙しいのは同じだし、あなたは水曜日と週末の午前中はほぼ空いているんだから、今週末からは洗濯もやって」
これでは自分の主張に間違いがなかったとしても、パートナーの行動が変わる可能性は低いでしょう。というのも、こうした「説得」は、「相手に『名案』を押し付け」ていることになる、とジェイ・オールデン・コンガー教授は断じています。
説得のための4つのプロセス
では、効果的な説得とは、どのように行われるべきなのでしょうか? ジェイ・オールデン・コンガー教授によれば、以下の4つのステップから構成されるそうです。
①信用を確立する
②相手と見解が一致するところに目標を設定する
③わかりやすい言葉と説得性の高い証拠を用いながら、そのような見解にいたった論拠を述べる
④説得したい相手と感情的につながる
このような4つのステップから、説得は互いに妥協を繰り返すものだとわかるでしょう。自分の主張を裏付ける証拠を並べて押し切るといった方法は、そもそも説得ではないようです。
説得をしようと思ったときは、まず相手の利益になることを探し、②の「相手と見解が一致するところ」を見つける必要があります。先の具体例であれば、家事分担のバランスを変えたい場合のパートナーの利益を把握することが大切です。パートナーが楽しそうにしている家事は何なのか、逆にパートナーが日々大切にしている時間が何なのを考えるといったことが、最初の一歩をとなるでしょう。
さて、この4つのステップでちょっとわかりにくいのが、「④聞き手と感情的につながる」かもしれません。
ジェイ・オールデン・コンガー教授は、④を成功させる方法について以下のように書いています。
「説得したい相手がどのような気分なのか、心の中では何を期待しているのかを理解」
さらに自分の説得の提案がどう影響するのかを、説得したい相手に近い関係者などから聞いて、
「相手の気持ちや期待と合致し、相手の気持ちを動かすことができるかどうか、それを確認することを怠らない」
最終的に相手が合意できてよかったと思えてこそ、④が達成されるということでしょう。
忘れてはいけないことは、大抵の説得の後には行動が待っていることです。説得に心から同意していなければ、約束はしたけれど行動してくれないといったことになりかねません。
説得のために質問する
説得の理想的なプロセスはわかったとしても、見解が一致する目標に相手の期待値を高めながら話すのは、それなりのスキルが必要です。いまいちコミュニケーションに自信が持てない人は、②の目標設定を自ら口にする代わりに質問してみるという方法があります。
相手に互いが目指すゴールを提案してもらうのです。
というのも他人から目標を課せられるより、自ら目標を設定した方が心理的な抵抗感なく動けると言われているからです。質問がうまくはまれば、③のデータを使った説得も必要なくなります。
このような説得における質問の有効性を、谷原誠氏は著書で次のように書いています。
「人は他人から命令されたことに従いたくありませんが、自分で思いついたことには喜んで従います。したがって、人を説得するときは、説得していることを悟られないようにしましょう。大原則です。そして、自分から思いついて決断するようにし向けるのです」(『「いい質問」が人を動かす』谷原誠/文響社)
質問された相手が思いつきそうな回答も考えておき、その提案の欠点も考えておいて指摘して、自分の考えているゴールに誘導するといった方法も取れるでしょう。
例えば、冒頭にあげた例でパートナーが「じゃあ、皿を洗おうか」と口にしたら、「それは夜遅くなりがちだから、寝る前のゆったりしたあなたの時間を削ることになってそうで気が引けるな」といったことを話してみるのです。それに相手が納得したら、自分が最初にゴールと考えていた「洗濯」を口にするかもしれません。
わかりやすいように、今回は家庭での会話を例にあげましたが、仕事における説得も流れは変わりません。
説得したい相手がいるなら、まず、4つのステップを念頭に置き、しっかり計画を立てて説得に至る道筋を見つけましょう。少なくとも思い付きで「説得」を始めるよりは、成功の確率がかなりアップするはずです。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考: 『「いい質問」が人を動かす』谷原誠/文響社)/『コミュニケーションの教科書』(ハーバードビジネスレビュー編集部/ダイヤモンド社)