ビジネスに交渉はつきものです。では、どんなふうに交渉すれば成功するのでしょうか? 巧みに言葉を操って、全ての利益を総取りする。そんなイメージを持っているなら要注意でしょう。それは圧力の掛け合いになる可能性が高いからです。もっと日常に取り入れやすい交渉術を活用しましょう。
相手をコントロールしない
交渉術と聞いて、何を思い出しますか? 映画などに出てくる立てこもり犯など話し合う交渉人、あるいは依頼人の要求をドンと突き付けるハリウッド映画に登場する弁護士でしょうか?
映画だけではなく現実の世界でも要求をゴリ押ししてくるタイプの交渉者はいます。敵対的で、相手を信用せず、自分の条件にこだわって、合意の最低ラインをごまかして圧力をかける。こうした交渉術を「ハード型戦略」と呼ぶそうです。
一方で、友好的に合意を目指し、相手を信頼して、合意の最低ラインを伝えてぶつかり合いを避け、偏った利益配分にも甘んじる交渉術を「ソフト型戦略」と呼びます。
この2つの交渉術は、どちらかの主張が通れば、どちらかが損をしてしまいます。そのため、どちらの交渉術を選択しても、避けられないも問題に直面します。
「ソフト型」の場合はあらゆる利益をはぎ取られる可能性があります。一方「ハード型」は交渉が思い通りに運んで利益を得られても、「長期にビジネスが続かない」「いきなり裏切られる」といったことが起きる可能性があります。
こうした交渉術から抜け出す方法としてハーバード大学が提唱しているのが、「原則立脚型交渉」です。言葉は難しいですが、内容はそれほど難しいものではありません。原則は以下の4つです。
人 ――人と問題を切り離す
利益 ――「条件や立場」ではなく「利益」に注目する
選択肢 ――お互いの利益に配慮した複数の選択肢を考える
基準 ――客観的基準に基づく解決にこだわる
「人と問題を切り離す」は、これだけだと少しわかりにくいかもしれません。「ソフト型」や「ハード型」は、相手との関係強化や維持が譲歩の条件となります。「これが飲めないのなら、お付き合いはここまでですね」といった内容が、その典型でしょう。
しかし「原則立脚型交渉」では、相手ではなく、交渉で話し合うべき問題に一緒に立ち向かう方法を探します。
だからこそ、まず着目するのは「利益」です。これは金銭の問題だけではありません。将来的なビジネスの拡大や、手間の削減、知名度の上昇といったものも「利益」になります。そして幅広い互いの利益を調整できる解決法のバリエーションを検討するのです。そのときには自分の都合の良い基準だけで判断することがないよう「客観的基準に基づく解決にこだわる」必要があります。
ポイントは「利益」の順位付け
まず交渉前に、自身の「利益」の順番を確定させる必要があります。あらゆる「利益」を書き出して、それに順番を付けていくのです。こうした条件の見直しができれば、相手にバーターの条件を出すこともできます。値段はこれしか出せないけれど、その代わりに保守は請け負うとかいった具合です。
また、相手が本当に望んでいるものが何かを探る必要もでてきます。相手が最も重要視している利益を特定し、それを自分の最大の利益とぶつからないように調整していけば、互いにとってプラスの交渉ができるからです。
意見と事実を分ける
こうした交渉でのポイントの一つは、意見と事実を分ける事です。これを混同すると話はややこしくなります。
相手に情報を伝えるときに、勘違いが起きないように意識しましょう。決定事項なのか、予測なのか、願望なのか、事実なのかを明確にしないと、議論の前提が変わってしまいます。実際、こうした区別を曖昧にして交渉をコントロールしようとする人もいます。
それで一時的に交渉がうまくいったとしても、長期的にはマイナスでしょう。不誠実な対応だと思われたら、敵対する交渉に逆戻り。仲間として交渉することは、より難しくなってしまうからです。
今日は交渉についてまとめてみました。意識を変えてみるだけで、これまではとは違う形で交渉を捉えられそうですね。
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監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』(ロジャー・フィッシャー )ウィリアム・ユーリー/三笠書房)/『うまくいく人はいつも交渉上手』(斎藤孝・射手矢好雄/講談社)/『会議の生産性を高まる 実践 パワーファシリテーション』(楠本和矢/すばる舎)