情熱に2つの種類があるのを知っていますか? 情熱さえあれば、状況は好転できると考えているなら考え直した方がいいのかもしれません。状況も好転しない、自分をも幸福にしない情熱について考えてみました。
- 仕事だと見過ごされる危ない情熱
- 成果は出るけれど
- 笑顔が消えて、違法行為も……
仕事だと見過ごされる危ない情熱
多くの人は情熱を賞賛します。仕事、勉強、スポーツなどなど、情熱がスキルを磨き、成果を育むと考えています。だからこそ情熱を感じられない人のふるまいを、問題と考えてしまうことも少なくありません。
しかし情熱を持っているからこそ不幸になってしまうといったことも知っておくべきでしょう。
自分も周りも不幸にする情熱については、恋人との関係を考えるとわかりやすいでしょう。恋人といる時間だけが自分にとって最も大切であり、離れてしまうから仕事に行くのも嫌だ。相手が友人や家族と過ごす時間も耐えられない。そんな状態のパートナーを、多くの人が「怖い」と思うのは当然でしょう。
ところが仕事となると、こうした情熱も評価されがちです。ずっと仕事のことを考え続け、成果を出すことだけに集中し、家族や友人関係も放りだしているように見える。そうした人が集う部署は熱狂的な雰囲気の中で、素晴らしい実績を上げている場合があります。しかし、そのような情熱はそこに関わる人を蝕んでしまいがちです。
成果は出るけれど
ケベック大のロバート・ヴァレランド教授によれば、情熱には2つのタイプがあるそうです。強迫的情熱と調和的情熱です。この2つの情熱は意外に見極めにくいのですが、大きなポイントの1つは情熱に支配されているかどうかといったことのようです。
情熱の対象となる活動が頭から離れなくて、他に手が付かないといった状態であれば、それは強迫的情熱です。一方、情熱の対象となる活動が生活にうまく取り入れられており、その活動によって生活全般が輝いているようなら、それは調和的情熱といえるでしょう。
かつてメディアなどでも騒がれた、ネットゲームにはまって抜け出せない「ネトゲ廃人」などは、典型的な強迫的情熱の在り方でしょう。
このように書くと強迫的情熱にはマイナスな部分が多く、そうした情熱など持ちたくないと思うでしょう。しかし問題は強迫的情熱と調和的情熱は、両方とも成果を出せるということです。つまり成果に注目しがちな分野では、強迫的情熱が推奨される場合が少なくありません。
例えばスポーツや仕事では、強迫的情熱によって成果が出やすいので、そうした情熱を問題にしないことも多くあるのです。長時間スポーツを練習し続ける強豪校や、家族のことを顧みない生活で収益を上げ続ける部門などなど。強迫的情熱に支配されたグループは、けっこうあるものです。
仕事の場合は上司が強迫的情熱を持っていると、部下にも同じような情熱を持つように強いるため、成果はあがるものの部下が不幸になっていくといったことは起きるようです。
笑顔が消えて、違法行為も……
では、強迫的情熱に支配された職場は、どのようなことが起きるのでしょうか?
例えば、仕事中笑顔が消えてしまいます。調和的情熱を持つ職場では、仕事が笑顔を促し、仕事仲間に親密さが生まれ、自己開示する傾向も強まります。しかし強迫的情熱を持った集団では、こうした人間なつながりは希薄になってしまうのです。
また、こうしたギスギスした関係の中で、成果だけが上がっている職場は、生産性、利益、パフォーマンスだけに焦点が当てられ、働く人たちの人間関係や健康状態などに、誰も注意を払わない傾向があるそうです。
ただ短期的には、素晴らしいパフォーマンを上げることができるため、必ずしも問題のあるグループとは認識されません。しかしかかわる時間が長くなるにつれて、バーンアウトする人が増えていきます。
そして、こうした集団にかかわり、自らも強迫的情熱を持ってしまった場合は、自らの幸福度が下がってしまうそうです。
もう一つ注意すべきなのは、こうした集団は利益のために、倫理的に問題のある方法も取り入れてしまうケースがあることです。例えば顧客を騙して高額の商品を売りつけるなど、売り上げのためなら手段を選ばないといったことも起こりがちなのです。
仕事への情熱を持っているのに、何だか自分が追い詰められているように感じてしまうなら、仕事のへの情熱が強迫的情熱に支配されていないかどうかをチェックしてみましょう。もし強迫的になってきていると感じるなら、生活のバランスを取り戻すようにすべきでしょう。また、あなたが強迫的情熱に支配されたグループにいるなら、自分がバーンアウトする前に何ができるのかを考えることも大切かもしれません。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「情熱に関する心理学研究の概観-Vallerandの情熱研究を中心に-」(羽鳥健司・石村郁夫)/「パッション尺度日本語版の作成および信頼性・妥当性の検討」(久保尊洋・沢宮容子)/「Are You Passionate or Obsessive About Your Job?」(Mark Travers Ph.D./Psychology Today)