「死への意識」がモチベーションとパフォーマンスを変えていく

モチベーションアップの方法は、さまざまな研究が進んでいます。内発的動機づけや長期目標などは、多くの人が耳にしたことがあるかもしれません。しかし今回は「死への意識」。やや風変わりなモチベーションアップの方法をご紹介しましょう。

  • スポーツではパフォーマンスが3~4割アップ
  • 死を意識すると時間が貴重に
  • 死への意識を活用する方法
  • 性格も変わるかも!?

スポーツではパフォーマンスが3~4割アップ

アリゾナ大学の研究チームは、死を意識するとバスケットボールのパフォーマンスが向上するという論文を発表しました。
自らの死についてどう考えているかといったアンケートに答えたグループは、一対一のバスケットボールゲームでアンケートを書く前より40%もパフォーマンスが向上したとのこと。ちなみにバスケットボールをテーマにしたアンケートに答えたグループに、パフォーマンスの変化はなかったそうです。

もう一つの実験は1分間でできるだけ多くのシュートを打つゲームでしたが、これも骸骨と「DEATH」(死)という文字がデザインされたTシャツを見た実験参加者は、見ていないグループより成功率が30%も高かったというのです。

このような結果が生まれた背景には、死を意識すると自尊心を高めようと無意識に努力する心理があると説明されています。そのため自尊心に関係ないことは、死を意識してもパフォーマンスが変わらないだろうとも指摘していました。つまりバスケットなど、どうでもいいと思う人だと、死を意識してもパフォーマンスが上がらないのです。

人は無意識に「死」からの影響を受けるので、ドクロの置物を置くだけでもモチベーションを上げ、パフォーマンスを改善する可能性があります。また、この実験の研究者は、すでにスポーツなどの指導者が選手に死を意識させるように言葉を掛けて、パフォーマンスを上げている可能性があると指摘しています。

死を意識すると時間が貴重に

日本でもモチベーションやパフォーマンスに、「死」が影響を与えるのではといった研究結果があります。奈良教育大学の石井僚准教授は、青年が死について考えると、時間の大切さに気付く効果があり、それは生きがいについて考えても得られない実験結果だと結論付けています。

モチベーションが上がらずに現実逃避をする人は、目の前の欲求に弱いことが知られています。勉強を続けて1年後に試験に合格するといった長期の目標より、目の前にあるゲームの魅力に勝てないといったパターンです。
未来の大きな利益より目の前の小さな利益を重視する傾向は、「現在バイアス」と呼ばれますが、大きなプロジェクトを進めるときには、こうしたバイアスはマイナスに働きます。

しかし「死」を意識し、日々の時間が貴重だと感じている場合はどうでしょうか? 時間を浪費するような行動が抑制される可能性があるでしょう。

スーザン・ブラック、エミリー・ムロズ、キアナ・コグディル・リチャードソンの研究は、死を意識することで高潔で充実した人生を送る意欲を持ちやすいと報告しています。死を意識すると、「人生一度きりだから好きなように生きてやれ」といった意識を持つ人が多いようにも感じますが、200人以上を対象にしたこの実験はそうした考え方を持つ人はいなかったそうです。

死への意識を活用する方法

では、死への意識を使ったモチベーションアップは、どのような方法があるのでしょうか。いくつか紹介していきましょう。

①自分の葬儀を想像する
自分が亡くなった後の葬式の様子を想像してみましょう。どんな人を呼び、どんな話をしてもらいたいのか、あるいは現在ならどんなスピーチを聴くことになるのかを考えます。

現在の生活の反省点を思いつくこともあるでしょうし、家族や友達の記憶に残したい自分の理想の姿を思い描くこともできるでしょう。自分の理想の姿を、自身の葬儀を想像することで考えてみましょう。

②死について文章を書く
これは先程紹介したバスケットボールの心理実験でも行われた方法です。

また、イギリス・ケント大学の研究者は、このタスクを1日10分~15分、1週間続けることで、「自尊心の増加」「思いやりや協調性のアップ」「ストレスの減少」という効果を確認しています。
ただしあくまでも短期的に使うべきであり、特に大きな不安を持つ人には推奨できないという注意喚起もされています。

③死を意識するアプリ
英語版しかないもののWeCroakというアプリを使えば、1日5回死を意識するような文章が送られてくるそうです。また「Death Clock」というサイトで、自分の年齢や住んでいる地域などのデータを入力すれば、自分の寿命を割り出してくれます。

どうしてもモチベーション不足に陥ったら、自分があとどれぐらい生きられるのかがわかれば、時間を大切にしたいと感じるかもしれませんね。

④ドクロを置く
見慣れてしまったらどうなのかという疑問はあるものの、ここ一番にはドクロの置物を見て気合を入れるといったことも可能でしょう。シルバーアクセサリーなどでも定番のモチーフであり、手軽に試すことができる方法ともいえるでしょう。

性格も変わるかも!?

バスケットボールのパフォーマンス向上の成果が、3~4割増しと高いことから、死への意識を持ちたいと思う人も少なくないでしょう。ただ変化するのがモチベーションだけではないことは、知っておいた方がいいでしょう。

米国スキッドモア大学のシェルドン・ソロモン教授は、死を意識すると倫理的な判断が極端になる傾向があると指摘しています。具体的には、自分と同じような世界観を持っている者をより肯定的に支持し、そうでない人をより否定的に扱う傾向が出てくるのだそうです。

つまり死を意識すると誇り高く、まじめに生きることができそうですが、やや融通のきかない、思考の幅の狭いタイプになってしまう可能性もあるというわけです。

死への意識が、生き様を変えることは間違いないでしょう。しかし、その変化は私たちが考える以上かもしれません。活用には注意が必要そうですね。

自分の心のあり方に興味のある方は、こちらもご覧ください。

監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会

参考:「Study Links Athletic Performance to Mortality」(The University of Arizona)/「青年期において死について考えることが時間的態度に及ぼす影響」(石井僚/『教育心理学研究』2013,61)/「自分の死を意識するほど人は前向きに生きようとする最新研究」(Mark Travers/Forbes JAPAN)

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