「ながらスマホ」という言葉に代表されるように、スマートフォンを操作しながらの行動は危険だと、さまざまな形で注意喚起されています。しかしスマホをいじりながらの会話については、多くの人が危険性を認識していないようです。
- スマホで恋人と別れることに!
- スマホしながらの会話がメンタルヘルス不調の原因に!
- 悪循環を引き起こす
- 記憶力まで低下する
- 4つの「ファビング」対策
スマホで恋人と別れることに!
スマホを操作しながら運転したり、歩いたりすることが危険なことは、多くの人が知っています。では、スマホをいじりながらの会話はどうでしょうか? じつはよく見かける光景であり、あまりに気にしないといった人も少なくないでしょう。
米国では「Phubbing(ファビング)」と名付けられた行為です。これは「phone(電話)」と「snubbing(冷たく扱う、無視する)」を合成したもの。スマホをいじりながらのコミュニケーションの有害性を表す単語です。こうした行動はメディアなどでも多く取り上げられており、2016年のCNNが掲載した記事には、次ように書かれています。
「米国人は平均すると6分半ごと、1日当たりに換算すると150回もスマートフォンをチェックする。必然的に、スマートフォンは衝突の原因として浮上。ある調査では、スマートフォンのために恋人とのコミュニケーション能力に支障が出たという回答が70%に上った」(「恋人の前でのスマホ使用、関係悪化の原因に 米調査」2016年12月15日)
もちろん日本でもアンケート調査などは実施されています。2016年10月に実施ゼクシィユーザーを対象としたアンケート「ダメ男、彼氏にドン引き、結婚前にやっておけばよかったこと」では、彼氏のドン引き行動のトップは、「いつもスマホをいじっている」でした。
ただ、その捉え方の深刻度が、米国とはやや異なるようです。先程紹介したCNNの記事では、「スマートフォンが金銭や性的関係、子どもの存在と同じくらい関係を悪化させる要因になっていることが分かった」と書いていますが、日本人からすると「ちょっとオーバーかな」というのが本音かもしれません。
スマホしながらの会話がメンタルヘルス不調の原因に!
デンマークにあるオーフス大学のイェスパー・アーガード准教授は、論文で「ファビング」がパートナーとの関係性を悪化させるだけではなく、メンタルヘルス不調にもつながりかねないとの見解を示してします。
さらにドイツのヴッパータール・ベルギッシュ大学に所属するタニア・ロクサーナ・ヌニェス氏によれば、「ファビング」はストレスを増大させるだけではなく、他人に対する軽蔑的な態度を生み出すと結論付けています。
そう、「ファビング」の心理的な研究結果は、なかなか深刻なのです!
さて、日本でも彼氏のドン引き行動トップにランキングされるほどなので、人と会っているときにスマホをいじる行為が相手にマイナスの印象を与えることは間違いないでしょう。それなのに多くの人が、行動を改善しようとしないのはどうしてでしょうか?
米国オルブライト大学のグウェンドリン・セイドマン准教授は、「ファビング」された人と、している人に認識の違いがあると指摘します。
「ファビング」された人は、相手の気が散っていたり、退屈しているのかと思うのですが、当人は重要なタスクを処理している正当な行動だと感じているそうです。たしかに「ライン来たら返さざるを得ない」といった思いで会話の最中にスマホを取り出した人は、退屈だからスマホを取り出したと考えもしないでしょう。
また「ファビング」された人は、始終スマホに邪魔されていると感じますが、当人はときどきスマホを手に取っているだけであり、そもそも自分はマルチタスクが得意だと考えているそうです。つまり、たまに他人の前でスマホを取り出すことはあるけれど、相手の話はきちんと聞いていると自分では思ってしまうわけです。
結果、他人から「ファビング」されたときは気分を害すのに、自分では平気で会話中にスマホを取り出すといったことが起きてしまいます。
すでにスマホの確認は、無意識の行動となっている場合もあるので、自身の「ファビング」行為を改善するのは、なかなか大変かもしれません。
悪循環を引き起こす
「ファビング」の影響が大きい理由の一つは、悪循環を生み出しやすいことでしょう。例えば、恋人の関係がうまくいっているとき、片方が無意識に「ファビング」をしたとしましょう。結果、相手は自分に興味がないのだと思い、急激に恋愛熱が下がっていきます。すると「ファビング」していた方の情熱も下がっていくので、会話に熱が入らず、余計に「ファビング」する時間が長くなってしまうのです。
つまり「ファビング」は恋愛熱を下げる原因であるとともに、問題を拡大させる要因にもなるというわけです。「自分に興味がないからスマホをいじってるんだ」という思いは、最初こそ間違っていたものの、次第に現実化してしまいます。
パートナーとの関係において、「ファビング」のマイナスの影響が大きいのは、相手から捨てられることを恐れる「見捨てられ不安」の高い人だそうです。「ファビング」が見捨てられ不安に火をつけ、その不安感が実際に別れを呼び込んでしまうそうです。
記憶力まで低下する
「ファビング」の悪影響はパートナーとの関係においてだけ起こるものではありません。
子どもと親の関係でいえば、親がスマートフォンを使う時間が長くなりすぎると、子どものフラストレーションは高まり、すねたり、かんしゃくを起こすといった行動も目立つようになると指摘されています。
米国イリノイ大学のブランドン・マクダニエル氏によれば、子どもが問題を起こすことで、親はよりスマホに逃避するようになり、さらに子どもが問題を起こすという悪循環が起きると指摘しています。
もちろん親が気晴らしにスマホをいじること自体に問題があるわけではありません。しかし「ファビング」が大人の人間関係を崩すのと同じように、頻度によっては子どもとの人間関係も崩れてしまう可能性があります。
じつは「ファビング」は自身の記憶や経験にも少なからず影響を与えています。というのもスマホを手元に置くだけで、記憶力が低下すると指摘されているからです。
そもそも人間はマルチタスクが得意ではありません。常に携帯を意識しながら会話すると、経験もそれに伴う記憶も目減りしてしまいます。結局、「ファビング」をすることで現実を「薄味」に変えてしまっているというわけです。
4つの「ファビング」対策
プラスの要素がなかなか見つからない「ファビング」への対策についても、書いておきましょう。
①自分が「ファビング」をしていると認識する
まず、自分が「ファビング」で他人に対して失礼な態度を取っていることを認識しましょう。自分の行動に気づいていない、あるいは本当に緊急なときしか対応していないと思っていても、それ自体間違っている可能性があります。「これまでも人間関係に悪影響を与える行動を取っていたのだろう」と、考えることが行動変容の第一歩となります。
②デジタルデトックスのアプリを入れる
いきなりスマホを手放すのが難しいなら、まずアプリを入れて、どんなときに自分がスマホをいじっているのかをハッキリさせ、「ファビング」がいつ起きているのかを明らかにしましょう。その上で「ファビング」対策をしましょう。
③気になったことの検索は後回しに
デジタルデトックスをしたとき、スマホがほしくなる瞬間として知られているのが検索です。ちょっとわからないことがあったとき、とりあえずスマホを出して……。そうした行動が「ファビング」につながります。
④相手が席を立ったときにスマホをチェックしない
たとえレストランでスマホをバッグにしまっていても、相手がトイレなどに立った途端、スマホをチェックしたくなるものです。ただ、こうした行動がその後の「ファビング」につながるという指摘もあります。せっかく人と会話しているときにスマホを手放せたのなら、相手が席を立ったときも手に取らないようにしてみましょう。
今日はスマホによる会話への悪影響についてまとめました。
スマホを使ったSNSについてはプラス・マイナス両面の研究結果を発見できるのですが、「ファビング」のプラス面はなかなか見つけられません。これを機に自身のコミュニケーション方法を、改めて見直してみるのもいいかもしれませんね。
自分の心のあり方に興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「子育て中の親のスマホ依存が子どもに悪影響 スマホを置いて対話を」(一般社団法人 日本生活習慣病予防協会)/「“Phubbing”: When Checking your Cell Hurts your Relationship」(Gwendolyn Seidman Ph.D./Psychology Today)/「A Third-Person Perspective on Phubbing」(Tania R. Nuñez)/「恋人の前でのスマホ使用、関係悪化の原因に 米調査」(2016年12月15日 CNN)