ダメ男やダメ女から離れられず、不健全な人間関係から抜け出せないタイプの人がいます。はたから見ていると、「なぜ別れないのかわからない」と感じるかもしれません。そこには心理学的な秘密があります。解説していきましょう。
- サンクコスト効果
- 現状維持バイアス
- 不作為バイアス
- 学習性無力感
- 未来への期待
- 無条件に愛したい
- 外部に頼ることも
①サンクコスト効果
サンクコスト効果とは、お金や労力、時間などを投資したのにメリットが薄く、コストだけがかさんでいくのにやめられなくなってしまう現象のことです。これだけ投資をしたんだからもったいない。ここでやめるわけにはいかないといった心理が働いています。
人間関係におけるコストは、これまでに費やしてきた時間やパートナーのための努力、感情的なエネルギーを指します。ダメなパートナーに費やしてきた労力の大きさが、新しいパートナーを迎えることを拒むのです。
実際、現在より素敵なパートナーが現れ、今のパートナーとの関係を続けることが論理的に有益ではないと思われる場合でも、不健全な人間関係に留まるという研究結果もあります。
サンクコスト効果は、時代に合わなくなった巨大プロジェクトが維持される理由にもなります。私たちは費やしたコストを取り戻せないことに、けっこう我慢できないものなのでしょう。それは人間関係においても当てはまります。
②現状維持バイアス
現状維持バイアスとは、未経験なこと、新しいことへの不安から現状を維持してしまう心理です。もちろんこれまでにない試みを不安に感じるのは当然でしょう。ただそれが強まり、ひたすらに現状を維持することにエネルギーを注ぐのは褒められたことではありません。
これは人間関係でも同じように起きるのです。新しい人との交際が始まれば、当然のことながら多少の混乱が生じます。そんな不安に対処するなら、今のわかっている不幸の方がマシだといった選択をしてしまうのです。
ダメなタイプの人を好きになる人は、常に同じような傾向の人を選ぶから、新しいパートナーでも苦労するだろうと考える人もいるかもしれません。実際、ダメな男ばかりを好きになる女性「ダメンズウォーカー」という言葉もあるほどです。
しかし心理学実験では、ダメなパートナーを選んだ人の好みのタイプが決まっているわけでもないという結果が出ています。
ダメな人は、「素晴らしい容姿」と「低い信頼性」といったプラスとマイナスの相反する特性を持つ傾向があります。しかし困ったパートナーから離れられない人が、そのプラスの特性に弱いというわけではないようなのです。
つまり美男美女など「素晴らしい容姿」にはまっているから別れられないと言っている人でも、パートナー選びの第一条件が「容姿」とは限らないのです。例えば、次のパートナーは「優しさ」と「不誠実」の相反する組み合わせになることもあるというわけです。「容姿」にこだわっているのは、目の前のパートナーが容姿に優れているからであり、別のパートナーが現れたときには必ずしも「容姿」が重要にはならないのです。
つまり現状維持の理由であるパートナーの魅力的な特性は、唯一無二のものではないというわけです。
また困ったパートナーと別れず現状を維持しようとする人は、「別れが相手を傷つけるのがイヤ」「新しいパートナーとの混乱がイヤ」「現在のパートナーの問題点がわからない」といった傾向があることもわかっています。
③不作為バイアス
何か行動を起こして問題が起きるなら、何もしないでマイナスの結果になる方がマシだという心理を「不作為バイアス」と呼びます。このままではプロジェクトがダメになってしまうかもしれないけれど、問題を指摘して大事になるなら、何も動かないで失敗を受け入れようといった心理ですね。
人間関係においての不作為バイアスも、自分から別れようと言い出せば相手を傷つけるかもしれないし、別れて自分が孤独になるかもしれない、別れのための言い争いをすることになるかもしれないといった不安からスタートします。そんなさまざまなマイナスに対処するぐらいなら、この人とやっていこうと考えてしまうのです。そうした思考が不健康な人間関係の維持につながってしまいます。
④学習性無力感
努力を重ねても思い通りの結果が得られない状況が続くと、「何をしてもムダだ」といった思いが募り、不快な状態を脱する努力を諦めてしまいます。こうした心理を「学習性無力感」と呼びます。
変化を起こせるようなチャンスがきても、学習性無力感に苛まれている人は行動を起こすことができないのです。
この心理と密接に結びついているのが自尊心です。自尊心が低くなると自分自身を尊重できなくなり、学習性無力感を遠ざけることができなくなってしまいがちです。結果として、自分の人生をコントロールする能力を失ってしまいます。
ダメなパートナーを支えようとしたり、悪癖を改善しようとしたり、自分の態度を改めてようとしたり、別れようといろいろ努力したけれど一切改善できなかった。そんな日々で学習性無力感が高まると、この不健康な関係から逃れるのは無理だという気持ちになってしまうのです。
そして、こうした思い込みが、余計に状況を悪化させてしまいます。
⑤未来への期待
いつかきっと問題が解決すると思っている人は、不健康な関係性を維持していることが多いようです。特に過去の楽しい日々が忘れられない人や、DVのハネムーン期のようにホッとするような時期があったりすると、余計に未来への期待を膨らませしまいがちです。もちろん苦しいときを一緒に耐えることもパートナーシップとしては重要ですが、耐える期間が長すぎるのは問題でしょう。
⑥無条件に愛したい
私たちは無条件に愛されたいし、無条件に愛したいと思っています。小説やドラマなどで「無償の愛」がテーマになるのは、それが多くの人の願望となっているからでしょう。そんな「真実の愛」への願望が、ときに不幸な関係の受け入れをアシストしてしまいます。
「無償の愛」の実践が困難なことは説明するまでもないでしょう。まして無償の愛や無条件の愛を得たいがために、相手のあらゆる行為を容認するのは崇高な行為ではなく、真実の愛とも言い難いでしょう。
ただ当人が自身の不幸に酔ってしまっているようだと、問題解決の道は遠のきます。
自分も主張し、相手の主張も受け止め、より良い関係を目指して互いに努力していくことが、素晴らしい愛の形だと気付くことも不幸な関係から逃れるのには重要です。
外部に頼ることも
不幸な関係と決別することは難しい側面もあるでしょう。特に現在の関係性が問題と気づいていないケースは、別れる気持ちさえ起こらないといったこともあります。逆に別れたいと思っても、その気力がないといった場合もあるでしょう。
こうしたときには外部に助けを求めることが重要です。友人、親族、行政機関なども役立つでしょう。それほど深刻な状態ではないと思っている人でも、上記のような心理で幸福ではないなと感じているなら別れについて考えてみるのもいいでしょう。
今日は不健全な人間関係を続けてしまう心理学的根拠をまとめました。
人は幸福に生きたいと思っているのに、なぜか不幸を払いのけられないことがあります。「別れるだけなのに」と考える人も多いかもしれませんが、それは他者が思うほど簡単な話ではなかったりするものです。
だからこそ「なんでこんな人と付き合っているんだろう?」という思いは大切にする必要があるでしょう。そうした疑問の回答になるような心理をまとめました。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:How to Leave a Toxic Relationship in 6 Steps( Marni Feuerman/verywellmind)/「3 Mental Traps That Shackle Us to Unhealthy Relationships」(Jourdan Travers/Psychology Today)