過労死と認定される労働時間の目安は決まっています。しかし自分で自由に出欠を決められるアルバイトは過労死と認められる?そんな疑問に応える判決です。
- 残業は84時間を超えていた
- 昼夜問わずに働いている状態
- 自ら主張することも重要
- 過去にもあるアルバイトへの賠償命令
残業は84時間を超えていた
2016年11月25日、店舗設備のレンタル会社にアルバイトとして勤務し、長時間労働の末に亡くなった38歳の男性の過労死が大阪地方裁判所に認定されました。
2012年4月に男性は仕事を終えた帰宅後に意識を失い、致死性不整脈により病院で死亡しました。この男性の死亡前1ヵ月の時間外労働は84時間で、いわゆる「過労死ライン」とされる月80時間を超えていました。
現在では、いわゆる残業が80時間に満たないケースでも過労死認定される場合があり、労働環境だけを考えれば過労死は当然の判決といえるでしょう。しかし裁判で争点となったのは、過労死でたびたび問題となる業務と死亡との因果関係とノルマの課されていないアルバイトに対する安全配慮義務でした。会社側は出勤日を自分で選択できるシステムだったことを主張したため、明確には強制とはいえない出勤に安全配慮義務が及ぶのかに注目が集まっていました。
昼夜問わずに働いている状態
大阪地裁は、「死亡直前の数日間はいわば昼夜を問わず働いている状態で、身体に重大な負担が生じていた」と指摘。その根拠の一つとして死亡1週間前には午前3時まで働き、約4時間の空き時間を挟んで翌日の0時ごろまで働いていたという勤務実態をあげました。さらに時間外労働が80時間を超えている点も踏まえ、業務と病死の因果関係を認めました。
もう一つの争点である「ノルマのないアルバイト」という立場については、約15年もアルバイトとして働いており、会社側は正社員と同様に心身に注意を払う義務があると判決に書いています。ただ、死亡した男性は「自ら休日を取り、疲労回復に努めるべきだった」とも言及し、賠償額の3割の過失相殺を認め、約4800万円を遺族に支払うよう命じました。
自ら主張することも重要
厚生労働省の調査によれば、非正規労働者の人数は2004年から2015年までの12年間、2009年を除いてずっと増大し続けています。すでに会社に非正規労働者が在籍していること自体は当たり前となり、業務の責任が重くなっているケースも少なくありません。中には正社員への雇用を希望し、無理な仕事をこなしているケースさえあります。労働者の責任感に訴える「空気」によって過重労働させられている非正規労働者の心身の「安全」をどう守っていくのかは、今後も重大な問題となります。実際問題として当人だけで守るのは難しい側面もあるでしょう。
今回の判決は、ノルマのないアルバイトへの会社側の安全配慮義務を認める一方で、働く側も自分を守るために主張すべき部分はしっかり主張し、自分の身を守るために自ら動くことを促す判決となりました。
過去にもあるアルバイトへの賠償命令
じつはアルバイトの過労死に対する損害賠償請求は、これまでにも認められています。2004年9月には、大阪地裁で入社51日で死亡した21歳の雑誌編集アルバイトの過労死を認定、約4700万円の支払いを会社側に求めています。
ただ、ここでの争点は業務と死亡の因果関係でした。会社側は特に業務量が多くなく、他の編集部員は元気に働いていると主張。それに対して裁判所は、発症するまでの9日間に休日もなく、116時間以上も働く長時間労働であり、発症前々日の業務時間が16時間にも及んでいることを指摘。職業性ストレスにより心筋梗塞を発症したと推認されるとの見解を示しました。
つまり正社員であってもアルバイトであっても、たとえノルマが課されていない職場であっても、会社側は安全配慮義務を負う可能性を裁判所は認めているのです。そもそも過労死するほどの労働は、社会的にも法的にも認められるものではありません。度を超えた過重労働は、従業員の立場にかかわらず放置が許されないことを経営陣も従業員もきっちり認識すべきでしょう。