残業代があるかないかで、賃金の額はけっこう変わりますよね。でも、残業代には請求できる条件に制約があったりして、比較的トラブルになりやすい賃金でもあります。残業代にまつわる地裁判決を紹介します。
- 278万円の支払い命令
- 歩合給だと通常の労働時間の賃金と割増賃金との判別ができない
- 「定額残業代」
- 健康を害するほどの残業はダメ
- 昼休みを取れなった分の支払いも裁判所が命令
278万円の支払い命令
6月末、残業代が歩合給で支払われたことを不服として、タクシー運転手が会社を訴えた裁判で、京都地方裁判所は、「(歩合給での支払いは)時間外・深夜割増賃金とは認められない」として、会社側に278万円の支払いを命じる判決を下しました。
原告の男性は2013年3月から3年間にわたり、時間外手当が認められず、歩合給で支払われてきました。男性側は未払いとなっている434万円を時間外賃金として払うように求めてきました。会社側は、月間運送収入35万円を超える額の42.5%を時間外・深夜勤務手当と規定していましたが、判決では「通常の労働時間の賃金と時間外・深夜割増賃金を明確に判別できない」と指摘しています。
歩合給だと通常の労働時間の賃金と割増賃金との判別ができない
じつは同様の判決は、平成6年6月の最高裁判決にもあります。やはりタクシー会社を従業員が訴えた事件で、時間外・深夜割増賃金は歩合給に含まれているという会社側の主張を、最高裁判所は退けました。
この判決では次のように書かれていました。
「歩合給の額が、上告人らが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべき」
つまり時間外・深夜割増賃金は時間によって支払われるものなので、その区分がしっかりついていなければならないという、しごく当たり前の論理です。
「定額残業代」
この時間外・深夜割増賃金に対する判決は、近年増えている違法な「固定残業代」を考える上でも重要な判例となっています。
まず、残業を見込んで、毎月定額で支払われる「固定残業代」そのものは違法ではありません。雇用側と労働者との間で取り決めている場合には、違法性がありません。ただし、この取り決めは、真摯に約束を守る雇用者側の姿勢の下に許されているものなのです。
健康を害するほどの残業はダメ
固定残業代の合意を超えた時間の残業代を支払わない。労働者の健康安全が脅かされるほど時間外労働が課されている。このような事態が起これば、固定残業代の合意自体が無効と判断されます。
実際、平成27年2月の東京地裁判決では、会社側の悪質性を認め、固定残業代の合意そのものが無効と判断。これまで支払っていた月45時間分の時間外・深夜割増賃金の支払いそのものも認めることができないと判決を下し、さらにペナルティに当たる「付加金」350万円の支払いまで命じました。
昼休みを取れなった分の支払いも裁判所が命令
労働問題の裁判では、時間外・深夜割増賃金についての争いが少なくありません。雇用サイドの横暴が、この部分に表れることが多いのかもしれません。
実際、2017年6月にも、上司からの暴行に加えて、昼休みを取れなかった分の時間外手当を求めた労働者に、佐賀地裁は一部支払いの判決を下しています。
なかなか減らない時間外労働に対して、人員の補充などで対処することなく、賃金だけ抑制しようという傾向は強まっています。働く人の健康を守るためにも、時間外・深夜割増賃金の法律的な枠組みは、ぜひ知っておきたいものです。