派遣社員やパートタイマーなどの非正規労働者と正社員との賃金格差は、大きな問題となってきました。簡単には解決できない問題を含みますが、手当てについては裁判所が踏み込んだ判決を出しているのでご紹介します。
- 根拠となった労働契約法
- 繁忙期の手当てに正規・非正規の区別はない
- 政府の方針と一致した判決
- 将来的には賃金体系が変わるかも
根拠となった労働契約法
2017年9月、非正規労働者と正社員の賃金格差について、かなり重要な判決が下されました。
日本郵便の非正規社員3人が、正社員との賃金格差の違法性を訴え1500万円の支払いを求めた裁判で、東京地裁が原告側の主張の一部を認め90万円の支払いを命じたのです。
この判決の根幹にあるのが、2013年4月に施行された労働契約法です。同法20条には、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」と書かれており、正社員と非正規社員の格差が合理性の範囲に留まっていることが求められています。ただ不合理かどうかを判断するためには、仕事の責任や内容を考慮する必要があり、判例も少ないことから、これまでは目立った待遇改善の効果が出ていません。
繁忙期の手当てに正規・非正規の区別はない
しかし今回の判決では、原告が求めた10の手当・休暇のうち、外務業務手当、早出勤務手当、祝日給、夏期年末手当、夜間特別手当、郵便外務・内務業務精通手当の格差は「不合理な相違と言えない」と判断したものの、年末年始勤務手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇が全く支給・付与されないのは「不合理な相違」と断定。「不支給には不法行為が成立する」との判決を下しました。
この不合理性の有無の根拠として、裁判所は契約社員が定型業務だけに従事していていることで昇任昇格がないことや、人材開発や状況把握といった人事評価項目や正社員のような人事異動がないことを指摘。正社員と非正規社員に働き方の違いがあり、結果としての賃金格差も認めました。
一方で年末年始勤務手当については「最繁忙期の勤務に対する対価で、非正規社員に支払われないのは不合理」、住居手当についても「転居を伴う異動のない正社員にも支給され、非正規社員に支給されていないのは合理的ではない」と手当ごとに、労働契約法20条が定める不合理に当たるかを判断したのです。
政府の方針と一致した判決
とはいえ正社員と非正規労働者の格差が、一気に解消できるわけではありません。これまでの同様な裁判に比べ、かなり踏み込んで判断したと評される今回の判決でさえ、原告側が求めた「将来にわたる労働条件の是正」については、「労働条件の不合理の解消は、労使の交渉の結果も踏まえて決定されるべき」と退けているからです。
ただ、この判決の方向性は、政府の方針と一致しているとの指摘があります。安倍政権が進める「働き方改革」では、「同一労働同一賃金」の実現を掲げ、昨年末にはガイドラインも発表しました。すでに働く人の4割近く、約2000万人が非正規労働者となっているのに、賃金は非正規が40%減という労働環境の是正は、政府としても急務なのでしょう。
将来的には賃金体系が変わるかも
日本郵便では、正社員と非正規社員は同じように夜勤や早朝出勤などの不規則なローテーションをこなし、年賀状の販売ノルマも同じように課されていたそうです。それでも病気休暇がなかったため退職した方もいたとの報道もあります。
これは一企業の案件ではなく、政策と司法の考え方に強い影響を受ける問題です。欧米のように「仕事」基準の「職務給」が一般的ではない日本で「同一労働同一賃金」を実現するため、将来的には日本の賃金体系が変わる可能性もあります。
いずれにしても正社員と非正規労働者の待遇格差にまつわる労働法制については、注目しておく必要がありそうです。