米国での中間選挙が近づくにつれて、メディアで騒がれるようになってきた「Qアノン」。トランプ政権を支持し、ネットの匿名掲示板で「秘密の事実」を暴露するQを信奉するグループは、どういった人々なのかを、心理学的な視点から解説していきましょう。
- 飛行機事故で亡くなったケネディ大統領の長男は生きている!?
- 陰謀論を信じる人達に共通の気質
- 火星人が攻めてきたとパニックが起きた歴史
- 困難な状況になるほど「陰謀論」を信じる!?
飛行機事故で亡くなったケネディ大統領の長男は生きている!?
下院議員と、3分の1の上院議員、州知事などが選出される米国の中間選挙が、11月6日に迫ってきました。今後の米国の政治を占う重要な選挙が近づくにつれ、「Qアノン」の存在がメディアでもクローズアップされるようになってきています。
選挙応援の様子を映し出すテレビ映像に、「Q」の文字がプリントされたTシャツなどを着た人達が映っているのを見た人もいるかもしれません。彼らはネットの匿名掲示板で人気の「Q」の主張を信奉し、トランプ大統領を支持する人達の間で影響力を強めている、と報じられています。
Qの主張の特徴は、「荒唐無稽な陰謀論」と読売新聞オンラインで国際政治学者の六辻彰二氏は語っています。その代表的な主張の一つとして、以下のような文章を挙げています。
「ケネディ大統領の長男で、1999年に飛行機事故(QAnonはこれがヒラリー・クリントン氏の仕組んだものと主張している)で死亡したといわれるジョン・F・ケネディ・ジュニアは実は生きていて、Qになった」
さすがに事故死したと報じられている人物がネットに降臨しているという話は、にわかには信じられないでしょう。
陰謀論を信じる人達に共通の気質
では、どのような人物が、このような陰謀論を信じているのでしょうか?
ユニオンカレッジの心理学准教授であるジョシュア・ハート氏は、1200人を対象としたアンケートにより、陰謀論を信じている人は「スキゾタイピー」と呼ばれる気質があると発表しています。
その特徴は、さまざまな物事に対して「誰も考えていなかったような意味や動機」を推測しがちであることだそうです。例えばコンピューターのモニタでランダムに動く三角形に、何か意図があると考える傾向があると書かれています。確かにさまざまな要因を結びつけて意味や動機を考えていけば、どのような情報も「陰謀論」として組み上げることができるようになります。
問題なのは、こうした「陰謀論」が、選挙結果に影響を与えるかもしれないほど「現実感」をともなっていることでしょう。
火星人が攻めてきたとパニックが起きた歴史
そもそも人は必ずしも理性的に考えるわけではありません。1938年のハロウィーンの晩には、俳優のオーソン・ウェルズがラジオ番組で『宇宙戦争』をラジオドラマとして放送。事実だと勘違いした百万人もの米国人を恐怖のどん底に陥れ、数千人がパニックになりました。
この騒動の心理学的研究をまとめた『火星からの侵略 パニックの心理学的研究』(ハドリー・キャントリル著 金剛出版)には、火星人の襲撃を信じた人々をアンケート調査した結果について、次のように書いています。
「それぞれ個人のある種の不全感を示唆している。個人は自分が比較的無力であり、よりよく適応しようという最善の努力が不十分だと感じている。さらに、これが意味しているのは、個人の生命とその運命は主に自己の外部の力に依っていると信じていること」
この「運命」が「外部の力に依っている」とは、「●●が世界を支配している」という陰謀論の考えた方とピッタリ一致します。
困難な状況になるほど「陰謀論」を信じる!?
また「もともと脆弱な自己信頼にさらに負担を増すような状況に直面すると、非暗示性が高まってしまう」とも書かれており、自分の状況が厳しければ厳しいほど「陰謀論」に傾いていく傾向があるといえそうです。
「陰謀論」が力を持つのは個々人の気質だけではなく、自分を「比較的無力」と感じてしまう社会状況も関係あるのかもしれないですね。