リンゲルマン効果を知れば、「人に働いてもらうって簡単なことじゃないんだな」と感じるようになります。社会的手抜きともいわれるこの効果を知り、働く環境を整えるとはどういうことかを考えましょう。
- リンゲルマン効果とは、集団での共同作業が非効率になる現象のこと
- 「働きアリの法則」にもみられる?社会的手抜き
- リンゲルマン効果を避けるための方法
- 個人のパフォーマンスを高めるなら、配置と評価が何より大事!
リンゲルマン効果とは、集団での共同作業が非効率になる現象のこと
ここに膨大な量の資料があり、整理をしなければならないとします。あなた一人で1時間作業をしたら、20のファイルを片付けることができました。では、同じ1時間で1万個のファイルを片付けるためには、何人の作業員が必要でしょう?
算数の答えとしては500人ですが、実際に500人の人を雇って1時間作業したとしても、すべてのファイルを片付けることはできないでしょう。それはあなたの作業が特別早いからではありません。リンゲルマン効果が働くからです。
リンゲルマン効果とは、作業人数が多ければ多いほど、一人当たりのパフォーマンスが劣化する現象を指します。かみ砕いていえば、人は集団で働くほどサボろうとするということなのです。
リンゲルマンは、フランスの農学者です。彼は農業に関する集団作業を行うとき、一人当たりのパフォーマンスを数値化する実験を行いました。結果、一人のときのパフォーマンスを100とすると、2人では93、5人では70、8人では49と、作業効率がどんどん低くなっていったのです。
「働きアリの法則」にもみられる?社会的手抜き
同じことが、人間ではなくアリにもみられることをご存知の人も多いでしょう。「働きアリの法則」があります。働きアリのうち、よく働くアリは2割しか存在せず、6割は普通に働き、2割はかなりサボっているというのです。
しかし、このうち2割の怠けアリだけを集めると、やはり2対6対2の割合で、「よく働くアリ」「まあまあ働くアリ」「怠けアリ」に分かれます。こうして全体的な作業量が保たれていくという法則です。
ただし、生物学的観点からみると、働くか働かざるかはそれぞれのアリの「反応の速さ」によるといわれています。つまり反応のいいアリがまず働き始め、反応の鈍いアリは、長い時間がたってからやっと重い腰を上げるというのです。怠けているというよりも、やる気になるのが遅いのが「怠けアリ」の正体と言えそうです。
リンゲルマン効果を避けるための方法
リンゲルマン効果のやっかいなところは、集団になったときのサボりが無意識的なものであるということです。「もっとやれるだろう」「もっと早くやれ」などと指導してしまうと、「こき使われている」と反発を受けてしまう可能性もありそうです。
では、リンゲルマン効果を避けるにはどうしたらいいでしょうか。4つのヒントをご紹介しましょう。
・作業ごとにグループを小分けにする
ファイル整理の例に例えるなら、ファイルを段ボールから出す係、綴じてある資料をバラバラにする係、分類係、ゴミを集める係など、作業ごとにグループを小分けにするのがいいそうです。単純作業の繰り返しなので頭を使わず、効率がアップします。ただしダレてくる可能性も高いので、休憩をこまめにとったり、ローテーションで役割チェンジをしたりするなどの工夫が必要です。
・少人数編成にして監督者をつける
集団を少人数に分け、監督者をつけましょう。集団でなくなったことによりリンゲルマン効果は薄くなります。また、監督者の目があるので、サボりにくくもなります。
・個人ごとの成果が目に見えるよう工夫する
誰がどれほど作業を行ったかがわかるよう記録をつけましょう。一番作業量が多かった人に報酬を与えるのも効果があります。自分の貢献度が上司や周囲に知られるため、「頑張らなければならない」と感じるようになります。
・適正に評価する
人は、頑張っていても評価されなければ、自然と仕事をサボるようになります。頑張りを認め、ときには誉め言葉をかけることも必要です。「きちんと見ていてくれるんだ」と感じれば、人は率先して仕事をするようになるのではないででしょうか。
個人のパフォーマンスを高めるなら、配置と評価が何より大事!
ここまで読まれた方はお分かりでしょう。適正な配置と評価を行う人事の仕事は、リンゲルマン効果を避けるためにも存在するのです。大きな組織であればあるほど、しっかり人事評価制度を設計しなければ、個々人が自分の能力を最大限に発揮できるようになりません。「最近、仕事のパフォーマンスが悪い人が増えている?」と感じたら、無理にハッパをかけるより、人事について見直してみてはいかがでしょう。
参考:『閲覧注意の心理学』(渋谷昌三 著日本文芸社)