会議だといきなり眠たくなったりしませんか? 一対一の話し合いのときはビシッとして眠くなんてならないのに……。
集団になると、ちょっと気が抜けてしまうことあるのではないでしょうか。じつは、これ、多くの人が無意識にしてしまう行動と言われています。
今回は「社会的手抜き」と呼ばれる行動について解説します。
- ブレーンストーミングで手抜きが!?
- 声を張り上げるのも手抜きする
- 習熟したプロフェッショナルは手抜きしない!
- チアガールがいるとみんな頑張った
- 手抜きを罰するのは禁止です!
ブレーンストーミングで手抜きが!?
ブレーンストーミングでアイデアを募集すると、個々人がアイデアを出すより数が少なくなりがちなのを知っていましたか?
リラックスした状態だからこそ、ブレーンストーミングでは自由な発想の意見が数多く出そうですが、じつは個人がちょっと手を抜いてしまうこともあるようです。
集団になると自然と手を抜いてしまう行動を、最初に明らかにしたには、ドイツのリンゲルマンという研究者でした。彼は1人のとき、2人、3人、8人のときと、それぞれ綱を引いてもらう実験をしました。その結果、1人で綱を引くときの力を100%とすると、2人のときは各々93%、3人のときは85%、8人のときは、なんと49%しか力を出していないことがわかったのです。これは1人で引いたときの半分以下の力ですから、全力で綱を引く4人にも勝てないことに!
声を張り上げるのも手抜きする
アメリカの心理学者であるビブ・ラタネは、こうした社会的な手抜きがいろんなところで起こっていることを証明した人です。
彼が行った有名な実験の1つは、叫んだときの音圧を測るもの。しかもただ人数を増やしただけではなく、実験参加者に目隠しをして、ヘッドホンから複数の人が叫んでいる声を聞かせながら測定したのです。これは実際は1人で叫んでいるのに、複数の人で叫んでいると思わせるための仕掛けでした。
というのも、いっせいに叫ぶことで起こる測定誤差を無くそうと思ったからでした。結果、1人で叫んでいる音圧を100%とすると、2人の平均は82%、6人だと74%という数値になったのです。
こうやって数値化すると、結果的に随分と手抜きしていることがわかりますね。しかも、社会的な手抜きは肉体を使う運動・労働だけで起こるわけではありません。先程、例にあげたブレーンストーミングなどの頭脳労働でも、同じようなことが発生しているのです。
集団でする仕事の場合、「社会的手抜き」をどう克服するのかは重要な課題なのです。8人揃ったら、1人半分しか働かないなど、プロジェクトのマネージャーにとっては悪夢のような出来事でしょう。
習熟したプロフェッショナルは手抜きしない!
この「社会的手抜き」の対処法に関して、NHKが放送した『大心理学実験』で面白い実験をしていますので紹介しましょう。
綱引き連盟所属のプロフェッショナルな綱引きさんたちに、トラックを引っ張ってもらったところ、1人でも3人でも5人でも、1人当たりの力は同じだったのです。
この結果について、NHKは「課題に習熟した、その課題のために技能向上を努力している人たちは手抜きをしない」とまとめました。
確かに1人でも気を抜けば、負けてしまう綱引きのプロは、それぞれが全力を尽くすのが当たり前。5人で綱を引いたからといって手抜きをすることはないのでしょうね。
チアガールがいるとみんな頑張った
しかしもっと面白いのは、次の実験でした。
集団だと手抜きをしてしまう一般人のグループがトラックを引いてるとき、チアガールを派遣して応援させたのです。すると5人の誰もが手抜きすることなくトラックを引っ張ったのです。
一方で、チアガールに参加者の1人の名前だけを呼んで応援したときは、名前が呼ばれた人だけ手抜きしなかったものの、他の参加者はもっと手を抜いたことがわかりました。
ここで重要だったのはモチベーション。
それぞれのモチベーションが落ちないように工夫ですれば、「社会的手抜き」は起こりにくくなるのです。
大阪大学の釘原直樹教授は『人はなぜ集団になると怠けるのか-「社会的手抜き」の心理学』(中央公論新社)で、「社会的手抜き」を防止するためには、内発的動機づけを高めるリーダーの存在が重要だと書いています。
「単に報酬を得、罰を避けるために行動するのではなく、将来を見通した、より高次の組織目標を達成するように働きかける」リーダーが望ましいとのこと。
なかなか得難いリーダーではありますが、逆にそれぐらいのリーダーでないと、社会的な手抜きを無くすことは難しいということでしょうか。
手抜きを罰するのは禁止です!
また同書では、手抜きを罰することにプラス効果はないと書いてあります。むしろマイナス。罰するぐらいなら、しっかり仕事した人を褒めるような方向の方が、「社会的手抜き」を少なくできるようです。
部下が働いてくれないと嘆いている上司の方、とにかく罰することをやめて、部下のモチベーションが上がるように努力してみませんか。
もしかしたら、いきなり2倍以上の力を部下が発揮してくれるかもしれません!