長時間労働が当たり前だった日本にも、働き方改革が進むことにより、やっと「効率的な働き方をしよう」「不必要に会社に残るのはやめよう」という考えが広まってきました。でも、もしかして、定時に上がろうと必死で仕事を終わらせるあまり、職場の人間関係を置き去りにしていませんか。ソーシャルキャピタルの重要性を知り、個人の、そして社会全体の財産の一つである人間関係を大事に育てましょう。
- ソーシャルキャピタルとは、人間関係を財産と捉え資本とする考え方
- 危機が訪れたときこそ、ソーシャルキャピタルが本領発揮
- テレワーク、残業なし、付き合い酒なしで会社はどう変わる?
ソーシャルキャピタルとは、人間関係を財産と捉え資本とする考え方
ソーシャルキャピタルとは、人間同士の信頼関係やネットワーク(ソーシャル)の資本(キャピタル)という意味です。信頼し合っている人々が、互いに互いの利益を考慮しながら行動することで公益性を高めることができるという考え方が、その根本にあります。
直訳すると「社会資本」となりますが、日本で社会資本といえばインフラなどハード面の公共財を指すことが多く、ソフト面の公共財としてのソーシャルキャピタルは「社会関係資本」「人間関係資本」などと訳されます。
努めて柔らかくいえば、「みんなと仲良くし、絆を深める行動が財産になってゆく」という考え方です。職場はもちろん、ご近所づきあいや趣味のサークル、ボランティア活動など、さまざまな集団で損得ない関係を築けば築くほど「個人としてのソーシャルキャピタルが高まっている」ということになります。そのような活動が活発である地域ほど」「ソーシャルキャピタルが確立されている」ということになります。
危機が訪れたときこそ、ソーシャルキャピタルが本領発揮
ソーシャルキャピタルは、日ごろは目に見えない存在です。しかし、本領を発揮するときが必ずやってきます。それは、危機が訪れたときです。日本では最近大きな地震、豪雨など災害が増えていますが、その地域にソーシャルキャピタルの蓄積があるかないかで、その後の復興の度合いや速度が違ってきます。
もちろん公的支援があることは、大前提です。しかし、大規模な災害が訪れたときに地域の人々がどれほど協力し合えるか、また外部とのネットワークを駆使してどれだけ支援を募れるかは、それまでに築き上げたソーシャルキャピタルの量と質にかかっているのです。
個人に置き換えれば、日ごろから交流を広く深く持っておけば、いざというときにより手を差し伸べてもらえる、差し伸べられる存在になるということです。会社でピンチが訪れることは、誰にでも起こりえます。体調が急に悪くなったとか、仕事で重大なミスをおかしてしまったとかさまざまなことが考えられます。
そんなとき、さっと薬を出してくれたり、「お前は休養室で横になっていろ」と代理で会議に出てくれたり、ミスを一緒になって全力でカバーしてくれたりするような人はいますか。残業をしないことにこだわり、誰とも会話をせずに働いていたら、そんな人間関係資本は築かれないでしょう。
テレワーク、残業なし、付き合い酒なしで会社はどう変わる?
会社にとっても、ソーシャルキャピタルの確立は大切です。会社が倒産の危機に瀕したときや、目標達成に全員で「もうひと踏ん張り」しなければならなくなったとき、そして個人のミスで大手取引先との取引がピンチに陥ったときなど、協力体制を敷かなければ乗り越えられない事態は、いろいろありそうです。
そんなとき、社員それぞれがどれだけ支え合って仕事ができるか、ピンチを救う可能性がある外部とのネットワークをどれほど引っ張ってこれるかは、ソーシャルキャピタルの確立がなされているかどうかにかかっているのです。
テレワークができるようになり、残業がなくなり、付き合い酒もなくなれば、確かに社員らは早く家庭に帰り、個々のプライベートは充実するかもしれません。しかし、そのために働き方に効率化を求めすぎると、ソーシャルキャピタルが損なわれていってしまう恐れがあります。企業は働き方改革を進めるあまり、会社の雰囲気が冷たい方向に変わっていっていないか注意する必要があるでしょう。
参考:『スタンフォードの心理学 人生がうまくいくシンプルなルール』(日経BP社)p.75