社員全員がビジョンを共有することができれば、みんなが同じ方向を向いてまい進することになり、会社の成長度は大幅にアップします。「わかっているんだけど、理念がなかなか浸透しなくて」と悩んでいる経営者はいませんか。ときには社員に、自社の理念をたっぷり教えてもらう機会を作りましょう。「他人に話す」という役割演技が、理念のインプットに役立ちます。
- 企業理念は訴えるだけでは足りない
- 毎日朝礼で暗唱させている場合はもう一息
- ジャニスとキングの役割演技実験
- 社員にはさりげなく理念発表の場を設けよう
企業理念は訴えるだけでは足りない
企業理念を社員に浸透させるために、どんな努力をしていますか。経営者自ら、社員に向かって理念を訴えかけるのはとても大事なことです。月イチの朝礼で徹底して話をしている、という経営者もいることでしょう。しかし、そんな努力とは裏腹に、社員は話を聞いているのかどうかわからない……というのでは、思わずため息も出てしまいますね。
毎日朝礼で暗唱させている場合はもう一息
なかには、企業理念を書いた紙をオフィス内に貼り出して、朝礼の時に読み上げを行っている会社もあるでしょう。記憶させ、暗唱までさせているところもあるかと思います。理念を覚えさせるには有効な手段ですが、本当に意識改革に役立っているかといえば、ちょっと不安が残ります。もう一息、工夫をしましょう。まずはこれから紹介する心理実験について、読んでみてください。
ジャニスとキングの役割演技実験
心理学者のジャニスとキングは、他人に話すことによって、その内容を信じるようになるのではと考えたのです。もともとは違う意見を持った人でも、他人に説明しなければならない状況に置かれると、説明した意見のほうに意識や興味が行くようになり、結果、自分の意見が変わってしまうのではという仮説を立てたのです。
この仮説を検討するため、ジャニスとキングは以下のような実験を行いました。
まず男子学生90人を3人1組に分け、「3年後の映画館の数」「食肉の提供量の低下」「風邪の有効な治療法の開発」という3つスピーチの概要を提供します。そして、そのうち一つについて「ほかの人にスピーチしてほしい」とお願いしたのです。つまり、3つの話題のうち、1つについては話し手となり、他の2つについては聞き手となるわけです。
そのスピーチの概要は、あらかじめ実験者が調査しておいた男子学生の意見とはかけ離れたものを用意しました。スピーチしたことで意見が変わってしまうのかを確かめるため、わざと本人の意見とは違うスピーチをさせたのです。
3つのスピーチが終わった後に行った測定では、スピーチを行った話題については、自身の意見が変容する傾向がみられました。自らが行ったスピーチ内容に賛成する方向へ、意見が変わったのです。
ただひとつ、「風邪」に関する話題だけ、意見の変容はあるもののそこまで有意な差はみられないという結果になりました。とはいえ、ここでも新しい発見がありました。スピーチ内容や実験後に行った面接結果などを分析してみると、「風邪」に関するスピーチ内容は概して資料のままに話すことが多く、自らのスピーチに対する満足感が低いことがわかったのです。
このような結果から、心理学者のジャニスとキングは、スピーチで意見が変容しやすくなる3つの法則を発見しました。
①口頭で相手に伝えることで、自身の意見は変わってしまうことがある
②与えられたスピーチの概要を話すのではなく、自分なりにアレンジした方が本来の意見も変わりやすい。
③自分のスピーチに対する満足感が高いほど、本来の意見から変わりやすい。
この3つが担保されれば、当人が意識することなく、もともとの自分の意見が変わる可能性が高いというわけです。
社員にはさりげなく理念発表の場を設けよう
経営者自らが理念をプレゼンしたり、社員に理念を暗唱させて頭に叩き込んだりすることは、もちろん重要です。しかし、さらにビジョンの浸透効果を高めるためには、社員自らが周囲にビジョンを披露する機会が必要であることが、実験結果から見えてきます。
毎日の朝礼で、毎月の全体朝礼などで、社員が企業理念をプレゼンする場を設けてみませんか。入社して間もない社員や、理念を無視して地を通しがちなベテラン社員には、かなり有効かもしれません。発表が終わったころには、きっと聞き手側ではなく発表者の奥深く、理念がしみわたっていることでしょう。
「わざわざ発表の場を設けるなんて不自然」「そんな時間はない」ということなら、新卒募集の会社説明会でビジョン説明を担当させるのも一つの手です。あくまでもさりげなく、理念浸透のチャンスを設けましょう。
参考:「対人社会心理学重要研究集3」