仕事をしていると、部下から成功した話しか聞かされないな、と思うことはありませんか?だからこそ報告のないときは、悪い想像しか働かないという悪循環にも……。そんな人にこそ知ってほしいのが、MUM効果です。
- 悪い話は誰も伝えたがらない
- 報告がなければ悲観的な予測ばかり
- 報告が受ける側が口にすべき言葉
- クレーム対応はスピードが命のワケ
悪い話は誰も伝えたがらない
プロジェクトが失敗した話、他社に営業で競り負けた話などなど、マイナスの情報は耳に届きにくいと感じたことはありませんか?あるいは逆に報告のない部下の仕事は、失敗ばかりしているのではないかと考えてしまったり。
これは組織全体が「MUM効果」に浸食されていることを示しています。
「MUM効果」を発見したのは、心理学者のテッサーとローゼンでした。二人はいくつも実験を繰り返した末、人は悪い知らせを伝えない傾向にあることを証明しました。
その理由はいくつかあるのですが、まず情報を伝えると、その原因が伝えた人にない場合でも、聞いた人は伝えた人にマイナスの評価を下しがちという問題があります。
例えば製造部門のプロジェクト主任が販売の失敗について報告した場合、販売の責任者でもない製造部門の人間だと分かっていても、マイナスの話を持ってきたという理由で心理的にマイナスの評価を下しがちになってしまうというわけです。
また、情報の受け手も悪い知らせは聞きたくないだろうという暗黙の了解がある上に、悪い知らせは良い知らせと違って、本人に伝えるという規範がないことも、タッカーとローゼンは指摘しています。
あらゆる失敗を共有し、それを「カイゼン」につなげていくというトヨタ式の企業改革は、「悪い知らせ」にも意味があるという規範を従業員に指し示したという時点で、かなり画期的といえるのかもしれません。
いずれにしても、悪い情報は伝えられないというMUM効果は、なんの対策も立てなければ、日々の人間関係や組織運営に悪影響を与え続けるのです。
報告がなければ悲観的な予測ばかり
さて、上記の話は伝え手側のMUM効果ですが、情報の受け手側のMUM効果もあります。これは「相手のことを知らなければ知らないほど、悪い方向に考えてしまう」心理傾向を指します。
いつもはすぐに報告する部下が、なかなか報告を持ってこない。それは嫌なことを報告したくなからではないのかと考え始めると、悪い予想がどんどんつながってしまうものです。
多くの人は、「報告がないから大丈夫なんだ!」と能天気には構えられないようですね。
たまたま報告を忘れていただけなのに、上司の頭の中は失敗の報告が来ると思ってご機嫌斜めといったこともあるかもしれません。
報告が受ける側が口にすべき言葉
では、MUM効果の危険性と、その対策を考えていきましょう。
情報の伝える側のMUM効果は、カイゼンすべき内容がシェアできないという問題が起こります。
失敗や問題は必ずしも個人に責任があるわけではないのです。組織として仕事のバランスが悪く、その人の仕事だけに負荷が掛かっているケースや、紛らわしい作業が重なっているのでミスを誘発しやすいなど、組織で解決できる問題もあります。そうしたマイナスの話は、カイゼンに向けた検討を促す絶好の機会でもあります。しかしMUM効果によって報告がなければ、状況はカイゼンされず、さらに大きな失敗や問題を引き起こす種を残すことになりかねません。
こうしたMUM効果の対策の第一歩は、まずマイナスの話も組織でシェアする必要性を説くことです。無意識に習慣化されているMUM効果なので、少し時間がかかるかもしれませんが、繰り返し訴えましょう。
そしてもう一つ重要なのが、本当にマイナスの情報を持ってきてくれた人への対応です。「問題を報告してくれてありがとう」と必ず口にしましょう。怒るなんてもってのほかです。怒れば報告は上がらなくなるのですから。
クレーム対応はスピードが命のワケ
情報の受け手側のMUM効果が、どれほどマイナスなのかは言うまでもないでしょう。何もしていないのに、勝手に最悪の状態を相手に想定されてしまうのですから。
これがクレーム対応だと、話はよけいにややこしくなります。自分のクレームが無視されたと感じ、どんどん気持ちはマイナスに引きずられます。結果、さらなる怒りをかってしまうのです。
受け手側にマイナス感情を起こさせないためには、すぐに報告するしかありません。ついつい後回しにしてしまいがちなマイナスの報告は、自分が報告しなければ、逆に問題が大きくなると理解して動きましょう。
マイナスの報告だけで不安に感じるなら、カイゼン点まで含めて報告すれば、少し自身の抵抗感が弱まることでしょう。またMUM効果は、単に報告しないのではなく、あいまいに伝えるという形を取ることもありますので、自分がマイナスの報告をするときは、あいまいな報告になっていないのかを確認するといいでしょう。
テストの点数が悪いときは、親に見せなかった経験のある人もきっといることでしょう。そんな心理は大人になっても変わらないものなのかもしれません。