「今からあなたの運命をサイコロの目が決めます」と言われたら、驚いてしまいませんか?しかし、「サイコロは、あなた自身ではなく、私が振ります」と言われたらどう思いますか。「いや、せめて自分に振らせてほしい」と思いますよね。そこには統制幻想の心理が潜んでいます。
- イリュージョン・オブ・コントロール
- ランガ―の統制幻想実験
- 「行動に結果が全く伴わないのは辛い」という心理が働く
- ギャンブルにハマりそうになったら思い出して
イリュージョン・オブ・コントロール
人には、自分の努力や行動が全く報われない状況であっても、それを認めることができないという思考の癖があります。脳科学や心理学では、この癖を「イリュージョン・オブ・コントロール」と呼んでいます。
ずいぶん往生際が悪いと思われるでしょうか。「自分はそうではない」と断言する人もいるかもしれませんね。でも、先にサイコロの例で示したように、イリュージョン・オブ・コントロールは、誰の心にも潜んでいるのです。
サイコロは、誰が振ってもそれぞれの目が出る確率は同じです。でも、他人がサイコロを振って自分の運命が決まるのは、なんとも納得のいきがたいものです。いざ振られて悪い目が出ると、「自分が振っていれば……」と悔しい気分になりがちなのは、イリュージョン・オブ・コントロールがあなたの脳を支配するからだといえます。
ランガ―の統制幻想実験
ハーバード大学のエレン・ランガ―教授は、イリュージョン・オブ・コントロールの存在を確かめるため、次のような実験を行いました。
実験参加者にくじを買ってもらった後に、「くじが足りなくなった。どうしても欲しいという人がいるから、あなたが買ったくじを売ってくれないか」と依頼します。この時点で、実験参加者は次の2つに振り分けられていました。
一方は、くじを自分で選択することなく買わされたグループ。いわばくじ売り場のおばちゃんから強制的にくじを振り分けられるようなものです。もう一方は、自分でくじを選んで買ったタイプ。もちろん、当たるかどうかはこの時点ではわかりません。
すると、他人に自分が買ったくじを売るときの値段に、変化があらわれました。自分で選択してくじを買った人は、そうではない人の4倍以上の値段をつけてくじを売ったのです。それほど、自分が引いたくじは貴重なものであり、当たる確率が大きいと思っていることの表れといえるでしょう。そしてそのくじが当たれば「やはり自分の買ったくじは持っておくべきだった」と、悔しく思うのでしょうね。
「行動に結果が全く伴わないのは辛い」という心理が働く
実験で明らかになったような統制幻想は、客観的に見れば全くばかげているように見えます。しかしいざとなると、誰もが同じような思考に陥ってしまうのはなぜでしょう。それは、統制幻想がないと人は頑張れないからです。「行動に結果が全く伴わないのは辛い」という心理が、背景にあります。
冷静に考えれば、どんなことでも努力や行動がそれに伴った結果を連れてくるとは限りません。どんなに勉強しても、自分より優秀な人が多ければ試験に落ちることもあります。普通の学生が集まる運動部が一生懸命練習しても、選りすぐりの選手を集めた学校の運動部にはかなわないこともあります。
しかし、私たちは努力をやめませんし、全く行動を起こさないほうが、むしろ勇気がいります。もしもすべてが現実的にはどうにもならず「何をやっても無駄」と感じれば、無気力状態に陥ってしまうこともあるでしょう。イリュージョン・オブ・コントロールは、私たちの意欲の源であり、心を健康に保つためには必要不可欠なものなのです。
ギャンブルにハマりそうになったら思い出して
とはいえ、統制幻想に支配されすぎるのも考えものです。先ほどの実験を行ったランガ―博士は、大きな目を出したいときには力強くサイコロを振り、小さな目を出したいときは静かに振る傾向がギャンブラーにあることを指摘しています。もちろん、どう振っても、それぞれの目が出る確率は同じです。でも、自分で目をコントロールできると思ってしまうと、さまざまな工夫をするようになってきます。
ギャンブルにハマりそうになったら、ぜひイリュージョン・オブ・コントロールを思い出してください。幸運は、自分でコントロールできないからこそ、幸運というのです。
参考:『やる気はどこから来るのか』(北大路書房)