シングルハラスメントを知っていますか?たとえ悪気がなくても、相手を不快にさせる結婚がらみの話題です。シングルハラスメントの背後にある心理と対処法をまとめました。
- 9割以上が体験しているハラスメント
- シングルハラスメントをする心理の裏側
- 3つの対処法
9割以上が体験しているハラスメント
シングルハラスメントとは、結婚に関する話題で未婚の男女を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりする行為です。ハラスメントにありがちなことではありますが、発言者は相手を傷つたと思っていないケースも多く、一般的な話題として、それどころか良かれと思って発言する場合もあり、やっかいな問題です。
シングルハラスメントに該当する代表的な発言は、以下の通りです。
「結婚の予定は?」
「なんで結婚しないの?」
「結婚したほうがいいよ」
「次はあなたの番だね」
「独身は気楽でいいよね」
「独身だから暇でしょ」
「相手いないの?」
「結婚できない人ってちょっとさ……」
「老後不安じゃない?」
けっこう言われたことがあるという人も多いのではないでしょうか?
女性ファッション雑誌『steady.』の読者アンケートでは、92%がシングルハラスメントを経験したと答えているほど、広範囲で行われているハラスメントなのです。
シングルハラスメントをする心理の裏側
では、シングルハラスメントをしてしまう心理は、どのようなものでしょうか? 相手の気持ちがわかれば、「スルースキル」も撃退の技術もアップします。心理学の調査から「加害者」の心理を探っていきましょう。
まず、シングルハラスメントをする人は、「結婚が素晴らしいものだ」と信じています。また「人間的な成長に欠かせない」といった想いもあるようです。なぜそうした思いにとらわれるのか、」男性と女性に分けて調査資料から読み解いていきましょう。
【男性編】
①幸せの根源が「家族」になっている
明治安田生活福祉研究所の調査によれば、「普段の生活で『幸せ』を感じるのはどのようなときか」という質問で、20~64歳の男性の回答でトップだったのが「家族団らんのとき」(複数回答)でした。
20代 23.4%
30代 35.4%
40代 41.7%
50代 44.8%
60代 50.5%
この選択の特徴は、年齢を重ねるごとに選択した人が多かったこと。60代では20代の倍以上の人が支持をしているのです。
ちなみに「1人でのんびりしているとき」は20代から60代で半減。「趣味(インドア系)の時間」も20代が27.5%なのに60代は16.5%と10ポイント以上下がっているのです。
②年齢を重ねるごとにアップする仕事への諦め
家族が幸せの重要な要素となる背景にあるのが、「将来の目標」をたずねたアンケート結果です。20代のトップ(47.7%)だった「仕事での成功」は、徐々に減少して、30代で35.4%、40代で23.0%、50代で15.2%となっています。
「財産を増やす」も20代は44.5%もあったのに、50代では25.4%に。公的年金や企業年金以外の老後の資金を準備していない人が50代の半数以上という結果を見れば、思ったより資産形成できなかった人が多かったといえるでしょう。
③厳しい現実
女性の「夫満足派」は、20代が78.8%と最高なのに、年代が下がるにつれて減少し、50代には62.8%まで下がります。一方、男性の「妻満足派」は40代の70.8%で底を打ってから60代には8割を超えるのです。
こうした男女のギャップは、熟年離婚の増加となって表れています。同居期間20年以上の夫婦の離婚件数は、1985年度は2万434件だったのに、2019年は4万395件と約2倍になっているからです。
仕事中心で生活してきた男性が、さまざまな現実に直面し、中高年になって「結婚の素晴らしさ」に目覚めていく傾向にあるようです。そうした想いがシングルハラスメントとして表れることがあるでしょう。ただ実際の家庭状況は、アンケート結果から見ると不安定な土台の上にあるかもしれません。
【女性編】
①結婚に焦る理由って
「既婚女性における結婚の価値」(長久ひさ子)は、結婚への焦りについて次のように指摘しています。
「50歳代が適齢期を迎えた時期には、まだ女性の経済的自立が困難だったことと関連すると思われる。(中略)自分では海外への転勤や社会で活躍することができない女性が、結婚相手の活躍に同一視し、結婚によってそれを得ようとしたのであろうことがうかがえる」
実際、女性が長く働ける職場に居た50歳代の女性は、独身の同僚が多く、結婚適齢期へのこだわりが弱いことも指摘しています。
結婚を急がせるシングルハラスメントの背景に、独身女性だと働きにくいといった労働環境があったという研究結果は重要でしょう。そもそも仕事を続けられる環境なら、「適齢期」を意識する人は少なくなるのです。このような背景を知ると、この手のシングルハラスメントにまともに取り合うのが何だかバカらしくなってきませんか?
②結婚の価値とは
結婚の価値についても調査した結果によれば、70代の既婚女性は「子どもを産む役割」という意識があったようです。一方、50代では子どもを持つことについて「子育てを経験したい」という主体的な想いに変わっているそうです。
こうした意識がシングルハラスメントとして表面化すると、「子どもを産んで一人前」や「結婚した方がいいよ」といった言葉になります。その背景には、「子どもを産む役割を果たしていない」、あるいは「素晴らしい子育てを経験しないなんて」といった想いがあるのでしょう。
結婚が新たな生活や価値観をもたらすことは事実でしょう。しかし、その新しい生活や価値観を必ずしも選択する必要はありません。「子どもを産む役割」を感じる若い世代はほとんどいないでしょうし、「子育ての楽しみ」もさまざまな価値の一つに過ぎません。そうした社会の変化を認識していない人が、シングルハラスメントをしてしまうのです。
では、シングルハラスメントの対処は、どのようにすればいいのでしょうか? まとめてみましょう。
①スルーする
もっとも簡単なのは、スルーすることでしょう。一度受け止めてからオウム返しをすると、それ以上会話が広がらないので有効です。
例えば、「老後が不安じゃない?」といわれたら、「はい。不安です」と答えてみましょう。「結婚したほうがいいよ」と言われたら、「はい。いいですよね」と答えたら、それ以上は話を展開しにくいでしょう。
②ハラスメントだと伝える
ハラスメントがいけないことだと分かっている人は増えています。特に職場では、発言に注意を払う人も多くなっています。「そんなこと言って大丈夫ですか? ハラスメントになりますよ」と、心配そうに返すと相手も慌てるかもしれません。
相手に悪気がない場合は、ハラスメントだと知らせることが再発の防止につながるでしょう。
③冗談で返す
最近、「結婚しないの?」という問いに、「私石油王と結婚したいんで」と答えたツイッターが話題になりました。このように思いっきり冗談にすると、周りが石油王との出会い方を考えてくれるなど、笑い話になるといった効果もあるようです。
④相談する
あまりしつこいようなら、相手のハラスメントを止められる人に相談しましょう。会社などで相談窓口がある場合は、改善しやすいかもしれません。自分だけで抱え込まないで対処しましょう。
ハラスメントに対策に通じる心理学の知識に興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:「既婚女性における結婚の価値観」(永久ひさ子/文京学院大学人間学部研究紀要)/「男性にとって“幸せ”とは? -当研究所『男性の幸せに関する意識調査』より-」(高田寛・橋本千春/『生活福祉研究』通巻81号)