不機嫌ハラスメントの略「フキハラ」。不機嫌な態度で周りの人に不快にさせるハラスメントです。Webで注目されている「フキハラ」の心理的メカニズムと対策を紹介します。
- ネガティブな感情は広まりやすい
- 無意識に巻き込まれているケースも
- 「フキハラ」対策を紹介
ネガティブな感情は広まりやすい
「フキハラ」という言葉を知っていますか?「不機嫌ハラスメント」の略で、伊是名夏子さんが「外では優しいのに家では不機嫌な夫。『フキハラ』には声をあげて、夫婦で話し合おう」(HuffPost)という原稿で提唱したものです。
不機嫌な態度で周りを威圧する人は、残念ながら少なくありません。そして人と接するときは、自分の感情が周りに大きな影響を及ぼすことを知っておく必要があるでしょう
周りの他人に感情が伝染していく現象を、心理学では「情動感染」と呼びます。しぐさや表情、声などの情報から、人々は感情をくみ取り、その感情に合わせてしまいがちです。つまり集団に不機嫌な人がいれば、同じように気分も悪くなってしまうというわけです。
これは喜びでも悲しみでも起きる現象ですが、特にネガティブな感情ほど伝染しやすいことがわかっています。しかも怒りの感情に巻き込まれてしまったとき、一部の人はただ不機嫌になるわけではありません。
伊是名さんは、夫の不機嫌な態度に接し続けたときの感情を次のように書いています。
ささいなことばかりですが、何かあるたびに嫌な顔をされると、気持ちがよくありません。私はお願いするのが億劫になり、時には怖くもなってきました。
「情動感染」の第一人者であるハワイ大学のエレイン・ハットフィールドは、怒りにとらわれた人の一部は恐怖に襲われてしまうと指摘しています。つまり不機嫌な態度が、周りにいる人を追い詰めることは心理学でも指摘されているのです。
無意識に巻き込まれているケースも
伊是名さんは、「フキハラ」について次のようにも書いています。
気を付けたいのは、一方的に相手を攻撃、支配しようとしたり、力や権力のある人が、相手を委縮させていないか、ということ。お互いの関係性や相手に与える影響の違いで、ハラスメントかどうかが決まってくるのです。
また、
「この関係がよくないのは私のせいだ」と思ってしまうこともあります。まわりから「よくあることだから」と言われ続け、ハラスメントがある状態を当たり前のものだと感じてしまうのも怖いところです。
とも分析しています。
多くのハラスメントは組織の「強者」から「弱者」に向けて行われると指摘されていますが、「フキハラ」も機嫌が悪いことで周りを委縮させているのかがポイントだというわけです。
ただし周りを委縮させていないからといって、不機嫌のアピールが許されるわけではありません。というのも不機嫌な感情は、当人が思っている以上の影響を及ぼすケースがあるからです。
「情動感染」に巻き込まれてしまうと、勝手にその原因を自分で勝手に探してしまうケースもあるそうです。つまり他人の不機嫌な感情に伝染して、理由なくモヤモヤした気持ちになっているだけなのに、家族や同僚のせいにしてしまう可能性があるということです。
こうした「情動感染」は報道やSNSでも起きることが指摘されており、否定的な言葉ばかりのSNSにさらされると、気分もマイナスになり、投稿もよりネガティブになっていくという報告もあります。
フキハラをしている当人は、それほどの影響を他人に及ぼしていると考えていないケースもあります。しかし「情動感染」の影響が大きいことを、まず理解する必要があるでしょう。
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「フキハラ」対策を紹介
フキハラの対策としておすすめなのは、不機嫌さが自分を追い詰めていることを表現し話し合うことでしょう。家庭内の「フキハラ」などは、こうした対処法が有効かもしれません。しかし会社などでは、不機嫌さを指摘するのが難しいケースも多いでしょう。
そうした場合に、3つの対策法を紹介しておきましょう。
①「感染」しないようにする
十分な睡眠と栄養を取って運動をして仕事に集中することで、「情動感染」に対抗しましょう。いろんなことを我慢して追い詰められてくると、人はマイナスの感情にとらわれやすくなります。他人の感情に巻き込まれないためには、まず自分の身体をしっかりと整えることが大切になってきます。
②デスクに心理的な障壁をつくる
机に植物を置いたり家族やペットの写真を置くなど、心理的な障壁を築くことで、ネガティブな感情に感染しないようにしてみましょう。また昼休みに外の空気を吸うなども効果的だそうです。
③感謝してから仕事を始める
ポジティブ心理学では、「感謝」が人を幸福にすることを明らかにしています。この知識を応用して、仕事を始める前に感謝すべきことを3つ思い浮かべるようにすることを、ポジティブ心理学の第一人者であるショーン・エイカーは推奨しています。
では、自分の機嫌がどうしても晴れない場合は、どうしたらいいでしょうか?
精神科医のニール・バートンは、いろいろな人に会って悪影響を与える前に、なるべく早く自宅に帰って寝ることを推奨しています。
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監修:日本産業カウンセラー協会
参考:「夫の不機嫌ハラスメント『フキハラ』に泣きながら声をあげた。私たち夫婦はどう話し合ったか。」(伊是名夏子/HuffPost)/「外では優しいのに家では不機嫌な夫。「フキハラ」には声をあげて、夫婦で話し合おう。」(伊是名夏子/HuffPost)/「他人がまき散らすストレスに“感染”しない4つの方法」( ショーン・エイカー ミシェル・ギラン/Harvard Business Review)/「Protect Yourself from Emotional Contagion」(Carlin Flora/Psychology Today)/「Emotional Contagion at Work」(Judith Orloff M.D./Psychology Today)