近年、大きな話題となっているハラスメントに、「カスハラ」と呼ばれるカスタマーハラスメントがあります。店舗などでお客が店員などに働くハラスメントです。そんな注目のハラスメントの現状をお伝えします。
- 7割を超える迷惑行為
- 金を払ったから当然
7割を超える迷惑行為
カスハラと聞くと、店員を土下座させてネットに公開したといった事件を思い浮かべる人も多いかもしれません。さすがにこのような全国ニュースになるほど悪質でないにせよ、日本全国で多くのカスハラが起きているようです。
流通やサービス業などの産業別労働組合「UAゼンセン」が実施した「悪質クレーム対策(迷惑行為) アンケート調査分析結果 〜サービスする側、受ける側が共に尊重される社会をめざして〜」(2018年)によれば、約5万人の回答のうち70.1%が「迷惑行為に遭遇した」と答えています。産業別で多かったのは、トップが84.5%を記録した百貨店、2位が家電関連の82.9%、3位が住生活関連の77.9%となっています。またカスハラへの対応としては、「謝り続けた」が48%を占めました。
かなりの確率で、カスハラに遭遇していることがわかるでしょう。
また、さらに厳しいアンケート結果を公表しているのが介護業界です。約8万人が加盟する「日本介護クラフトユニオン」の「ご利用者・ご家族からのハラスメントに関するアンケート」(2018年)によれば、入所者や利用者、家族からハラスメントを受けたかどうかの質問に、74.2%が「ある」と回答。その内容については、約6割が「攻撃的な態度で大声を出す」といったもので、約2割は「身体的暴力を振るう」とも回答しているのです。
金を払ったから当然
『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』によれば、抵抗できない者に怒りをぶつける心理の裏側に、金を払うのだから当然だという意識があると解説しています。そのためカスハラをしている本人が、自分がハラスメントをしていると認識していいないケースも多いそうです。
こうしたカスハラは、従業員の心にも影響を与えています。先に述べた「UAゼンセン」のアンケート調査によれば、お客からの迷惑行為によって「強いストレスを感じた」人は54.2%、「軽いストレスを感じた」人は37.1%、「精神疾患になった」人は0.5%で、全体で91.8%もの人が迷惑行為による影響を受けていました。
厚生労働省によれば、顧客や取引先からのクレーム対応で精神障害の労災認定を受けた人は、過去10年間で78人となっており、そのうち24人が自殺していたことが判明しています。
カスハラの問題に対して、厚生労働省の諮問機関「労働政策審議会」で、カスハラの指針策定に向けた議論を始めています。ただ、厚生労働省の担当者は「ハラスメントの中でも、カスハラは特に、どこからが迷惑行為に当たるのかの線引きが難しい。慎重に議論を進めている」(『読売新聞』2019年10月12日)と語っています。
ハラスメントに対応する人を孤独にしないなど、企業・社会をあげてカスハラに対応していかないと、解決が難しい状況ともいえるでしょう。自治体などでは対策を打ち出しているケースもありますが、どう対応すべきなのかは、まだまだこれからの課題ともいえるでしょう。
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参考:『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』/NHK「クローズアップ現代+」取材班・編著 | 販売者:文藝春秋