お客様のためと要求に応えているうちに、「サービスの範囲を超えているかも」「仕事とはいえ辛い」と感じたことはありませんか。カスハラは、対応する人を精神的に追い込む悪質な嫌がらせです。顧客対応で傷ついたときに考えたいことをご案内します。
- カスハラとはカスタマーハラスメントの略称
- わかりにくいカスハラもある
- カスハラを放置すると働く人の心に影響を及ぼす
- やり取りを記録し上司に相談したい
- 覚えておきたい違法行為
- 会社にとりあってもらえなければ外部の窓口も活用して
カスハラとはカスタマーハラスメントの略称
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略称です。つまり、カスタマー(消費者、利用者、顧客)によるハラスメントのことを指します。以前は「悪質クレーム」などと呼ばれていた、消費者による理不尽な嫌がらせのことです。ハラスメントの俎上に乗ったのはつい最近で、それほど悪質クレームは深刻な問題になっているといっていいでしょう。
産業別労働組合のUAゼンセンが2017年に行ったアンケートによると、流通・サービス業で接客対応をしている男女5万人のうち、「業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇したことがあるか」という質問に対して全体の7割が「ある」と答えました。
迷惑行為のうち多いのが「暴言」や「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」で、暴言の内容は「アホ」「低能」「ブス」「ババア」といった、セクハラまがいのものも含まれます。飲食店やスーパーで、お客が店員を延々と罵倒している……そんな図が浮かんできます。
ハラスメントについて知りたい方は、こちらの記事もおすすめです!
これってパワハラ?セクハラ?なやんだときに打ち明けられるハラスメント相談口
【令和の世にはなくしたい】いくつ知ってる?職場で起こりえる8つのハラスメント
わかりにくいカスハラもある
カスハラは、さまざまな職場で起こりえます。罵倒や脅迫は分かりやすいですが、最初は「対応もサービスのうち」と考えていたものが、カスハラへと移行することもあり得ます。例えば、次の例に近いことが、あなたの職場でも起こっていませんか。
・カスタマーサービスの電話口で罵倒される
商品についての相談窓口で電話を受けたら、「こんな商品を売るなんておかしい」「今すぐ商品を全購入者から返品してもらうべきだ」などといった意見をもらった。それだけなら対応できたが、だんだんヒートアップしてきて「あんたのとこみたいな会社は倒産すべきだ」「あなたの家を教えなさい。行って説教してやる」などと言われ、結局電話に2時間付き合った。
・介護をしていて高齢者から暴力を受ける
認知症ではない施設利用者から、介助の際にたびたび頭を叩かれる。身体を思い通りに動かせない悔しさからきていると、初めは我慢していたが、最近では「お前はノロマだ」など罵倒されながら頭やお腹を叩かれるようになってきて辛い。
・病院で働いていて患者から理不尽な要求をされる
日に何度もナースコールで看護師を呼ぶ入院患者がいる。内容は緊急のものではなく、「見舞いに来ている孫の宿題を見てやってほしい」といったような医療目的以外のことばかり。「薬が苦い。甘くしろ」などと言われたこともある。ナースコールを無視するわけにもいかず悩んでいる。
「難しい要求への対応もサービスのうち」と認識されている職場で起こるカスハラは、どこまでが仕事の範囲なのかを見極めるのが難しいものです。カスハラという言葉が生まれたのが最近のため、明確な定義も確立されておらず、各職場で事例についてそのつど話し合っていくしか、さしあたっての対策はありません。
カスハラを放置すると働く人の心に影響を及ぼす
一人だけで対応に悩むと、心の健康に影響を及ぼしてしまう恐れがあります。とくに、「お前がノロマだから」など、「満足な対応ができないのはお前の能力不足のせいだ」となじられると、「本当にそうなのかも……」と、誰にも相談できない気持ちになってしまいませんか。心は落ち込み、お客に罵倒される毎日を続けていたら、うつ状態になってしまいかねません。
なかには、カスハラが辛くて辞めたいと感じる人もいることでしょう。しかし、会社の人間関係ではなく、たった一人の顧客のために会社を辞めるのは実にもったいないことです。会社にとっても、一人の顧客によって大事な人材を失うのは大打撃なのではないでしょうか。
やり取りを記録し上司に相談したい
カスハラに心底悩み、メンタルへルスの不調に陥ってしまう前に、やるべきことは「記録」です。カスハラを行っている顧客とのやり取りを、きちんと記録しておきましょう。そして、記録を整理したうえで上司に対応を相談します。ときには、お店などにある防犯カメラの映像が役に立つこともあるでしょう。
こうして、やり取りの正確な記録を行い、上司への報告を続けていれば、会社としても深刻な事態と受け止めざるを得ません。カスハラへの対策に社内全体で取り組むときにも、あなたの記録が大いに役立ちます。
覚えておきたい違法行為
お客さまといえども、次のようなものは違法行為に当たる恐れがあり、警察に相談できるレベルです。覚えておきましょう。
・「土下座しろ」といった強要――強要罪
・「火をつけるぞ」「殺すぞ」といった威嚇、脅迫――脅迫罪
・「金払え」といった不当な金品の要求――恐喝罪
・長時間の拘束――度を越していれば監禁罪
・長時間の居座り――不退去罪
「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査 分析結果」(UAゼンセン流通部門)より
会社にとりあってもらえなければ外部の窓口も活用して
なかには、すさまじいカスハラを受け、記録を提出しても上司に取り合ってもらえないという人もいるかもしれません。そんなときは、外部の相談窓口も活用しましょう。カスハラに特化した相談窓口を探そうとすると、なかなか見つからないかもしれません。ハラスメントを含めた職場の悩みについて対応してくれる、電話窓口にまずは相談してみましょう。
【職場の悩みに対応している相談窓口の例】
こころの耳 相談窓口:http://kokoro.mhlw.go.jp/agency/
ハラスメント悩み相談室:https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/
なんでも労働相談ホットライン:https://www.jtuc-rengo.or.jp/soudan/
産業カウンセラー養成講座ではメンタルヘルスや産業組織心理学、労働関係法などについて学べます。興味のある方はこちらをご覧ください。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査 分析結果」(UAゼンセン流通部門)