よく、「目標は誰かに宣言したほうがいい」といわれます。夢を言葉にすることで自身が目標を再認識できますし、他人という監視役ができることで、「絶対にやらなければ」と感じられるようになるためです。しかし、心理学的には、夢や目標は誰かに語ると叶えられないともいわれます。それじゃただのビッグマウスになっていまいます……。
いくつかの心理実験から、その理由をご紹介しましょう。
- 宣言は、自分自身に「その夢はきっとかなう」と錯覚させるのには有効
- ロスのケース・ヒストリー実験
- でも、実際なかなか夢はかなわない
- ペーター・ゴルヴィツァーの目標宣言実験
- どんどんビッグマウスに陥る前に、口チャックを!
宣言は、自分自身に「その夢はきっとかなう」と錯覚させるのには有効
夢や目標を誰かに語ることが、実現可能性を高めることにつながらないなんて……。それじゃただ、大それた夢を他人に開示したという恥ずかしい事実しか残らないのでしょうか。大丈夫、効果はそれなりにあります。でも、あなたが期待しているような効果ではないかもしれません。
「私、●●を実現する!」と語ることそのものの効果は、自分自身に「●●は、きっと実現するだろう」と思い込ませられることです。自分で説明した出来事については、ほかのことよりも起こりやすく感じることが、心理実験でわかっています。
ロスのケース・ヒストリー実験
心理学者のロスは、ある出来事を説明すると、それが起こる可能性がより大きく感じられるようになるという仮説を立て、心理実験を行いました。参加者たちは、ある人の生い立ちや家庭環境などが記されたケース・ヒストリーを読み、その後、実験を行います。
参加者たちは、ケース・ヒストリーに書かれている人物が「自殺した」か、あるいは「寄付を行った」かのどちらかを選択して説明するよう指示されました。その説明には、それまでに読んだケース・ヒストリーのなかから、自殺あるいは寄付するに値するような理由を見出し、もっともらしく説明しなければなりません。
説明をしてもらったうえで、実験者は「実は、この人物が自殺したか、寄付をしたかは不明だ。ケース・ヒストリーに書かれている以後のことについては、なにもわかっていない」と告げました。そして改めて「自殺」と「寄付」を含む5つの行動のうち、ケース・ヒストリーの後にその人物がとりうる可能性はどれほどあるかを、9段階で評定してもらいました。
すると、ケース・ヒストリーの人物が自殺すると説明した人は、やはり自殺する可能性をより高く評定し、寄付をすると説明する人は、寄付の可能性をより高く評定したのです。ただ、これは初めに行動が実際に行われたと思い込んだことが影響しているのかもしれません。
そこで「これは仮定の話です」とあらかじめ告げたうえで、説明をしてもらう実験を追加で行いました。しかし、たとえ仮定的なものであっても、自分が説明した出来事は、より起こる可能性が高いと考えられるということが、実験結果では示されています。
でも、実際なかなか夢はかなわない
ロスの実験からは「自分が話したことは起こる可能性が高いように感じられる」ことがわかり、夢を語ると「きっと実現する」という気持ちが自分の中で高まることが示唆されます。でも、そんな自己暗示とは裏腹に、語ってしまったことが結果にマイナスの影響をおよぼすという結論に至った、もう一つの心理実験をご紹介しましょう。
ペーター・ゴルヴィツァーの目標宣言実験
ニューヨーク大学のペーター・ゴルヴィツァー教授は、2009年に次のような実験を行いました。参加者たちが、自分の目標を紙に書きます。そして参加者の半分は目標をその場で宣言し、半分は宣言せずに、目標につながる作業をスタートしました。「作業はいつでもやめてよし」という条件付きです。
目標を宣言しなかったグループは、約45分間の作業を行った後、「目標は達成できなかった。もうちょっと作業を続ける必要があります」と口々に言いました。しかし一方で、目標を宣言したグループは、30分ちょっとで作業をやめ、「もう少しで目標を達成できたんだけど」と言い訳めいたことを口にしたのです。
この実験は、TEDスピーチの場でアメリカの企業家であるデレク・シヴァーズに紹介され、「目標は他人に話すべきではない」と締めくくられました。デレク氏は、「目標を口に出すことで満足してしまった」と考察しています。自らの未来を語ることで、すでにそれが実現しているかのように錯覚するというのは、先ほど紹介したロスの実験からもうなずけますね。
どんどんビッグマウスに陥る前に、口チャックを!
「オレはやってやる」といつも言っている人が、ビッグマウスな割に成果を出さないとうわさされてしまうのはよくある話です。しかし、その人は、ビッグマウスであるがゆえに夢が実現しないということに、気づいていないだけかもしれません。自分で自分の夢を阻害しないためにも、他人に呆れられないためにも、本当に叶えたいことは心に秘めておいたほうがよいかもしれません。
参考:「対人社会心理学重要研究集5」