心理学が教える「自分探し」の意味と方法

「自分探し」をしたくなることはありますよね。ただ「自分探し」に意味がないといった説もWebでは見かけます。そこで「自分探し」の意味と方法を改めて考えてみました。

  • 「本当の自分」はいつも善人
  • 行動に影響を与える「本当の自分」
  • 「本当の自分」はいない!?
  • 人生の意味と目的を求める
  • 自分の能力とスキルを考える
  • 過去を理解する
  • 他人のために動く

「本当の自分」はいつも善人

「自分探し」が最も流行っていたのは、1990年代中頃のようです。たしかに当時は、「自分探し」のためにインドに行く人が、けっこういたように思います。日本人の常識がまったく通じないインドでカルチャーショックを受け、それまでの「常識」とは違う観点から「本当の自分」を考える。そんなことが実際に行われていたのです。

しかし現在、旅で未知のものを探す傾向も弱まり、自分探しの旅という単語もあまり聞かなくなりました。それでも自分探しをしたい人は世界中におり、その効果的な方法を探してもいます。

そこで心理学的な観点から自分探しについて説明していきたいと思います。

そもそも自分探しは、「本当の自分」がどこかにあると考えていないと始まりません。当たり前ですが、あるがままの自分が「本当の自分」なら探す必要もないからです。いわば現在の自分と「本当の自分」のギャップこそが、自分探しの原動力ともなるのです。

そして面白いことに、「本当の自分」はさまざまな文化を超えて、類似したイメージがあります。それは道徳的で善良な傾向性です。つまり「本当の自分は極悪だ」という認識は持ちづらいということ。

そのため悪い習慣を克服すると「本当の自分」に近づいたと感じ、逆に悪い習慣に染まり始めた人は、「本当の自分」から目を反らした行為と感じるのだそうです。

行動に影響を与える「本当の自分」

この「本当の自分」という概念が重要なのは、人生の意味と密接に関わっているからです。例えば家族と一緒にいるのが「本当の自分」だと感じている人は、家族のために費やした努力に意味を見いだします。仕事と家族の両方に同じような時間を割いたとしても、当人にとって意味があるのは家族に費やした労力と時間なのです。

またメンタルヘルスでも、「本当の自分」の問題は影響を及ぼすことがあります。テキサス大学オースティン校のアート・マークマン博士によれば、発達障害の一つであるADHDに苦しむ人は、「本当の自分」を取り戻せると感じるからこそ積極的に薬を飲む傾向にあります。
一方、いわゆる「躁うつ病」と呼ぶ双極性障害の人は、薬を飲むと「本当の自分」が変わってしまうと感じるため服薬に消極的だそうです。

つまり「本当の自分」を知ることは、より積極的に生きるための指針を理解することにつながるのです。

「本当の自分」はいない!?

少し残念なお知らせですが、科学的な観点からは「本当の自分」が存在しているとは考えづらいと、アート・マークマン博士は指摘しています。その説明については、詳しく書いてありません。ただ自分探しについては、立教大学の中原淳教授も、自分は「ここ」にいるから探しても見つからないと書いています。
つまりインドに「探し」に行っても、そもそもないし、見つからないといった事が起きるわけです。

また善良な「本当の自分」を誰もが持っていると感じてしまうことも、少し注意が必要です。人は他人を絶対の悪だとみなすことに躊躇し、いつか「本当の自分」を発見して道徳的に生きるだろうと思いがちです。

この考え方自体は素晴らしいものですが、そもそも「本当の自分」がないのだとしたら妄信は禁物でしょう。誰もが「本当の自分」を追い求めて善行を積みたくなるわけではありません。

では、自分探しとは何をすることなのでしょうか?
それは自分の価値観を確認することです。どこかに漂っている「自分」を探すのではなく、現在の自分とつながり、自分にとって意義ある何かを探すことが、本当の自分探しなのです。

そこで自分の探しの参考となるヒントを4つ紹介しましょう。

①人生の意味と目的を求める

ナチスの強制収容所での凄惨な実体験を描いた『夜と霧』の著者である、心理学者のヴィクトール・フランクルは、「環境によって人生が耐え難いものになることはけっしてない。人生を耐え難くするのは、人生に意味と目的を見出せないことだ」と語っています。

自分にとって意味があると感じることを見つけることが、自分探しにとって重要です。大変な状況であっても、それが自分にとって意味があると思えれば、前向きに対処することもできるでしょう。しかも私たちは理想的な目標に幸福を感じる傾向があるので、人生の意味を追い求めることで、理想的な世界をつくり上げられると感じられるような目標を立てるといいでしょう。

もし意味や目的が見つからないと感じたら、次の質問に答えてみてください。
「無条件で好きなことは何ですか?」
「誰も見ていないとき、あなたは何を楽しんでいますか?」
「もし1兆円持っていたら何をしますか?」

質問の回答から、人生の意味や目的のヒントが見つかるかもしれません。自分の人生の意味や目的を、心惹かれるといったポイントから探してみましょう。

②自分の能力とスキルを考える

自分の能力とスキルを知ることも、「自分探し」には大切です。というのも自分が磨いてきた能力やスキルによって、自分にとって意義ある世界をつくり出される可能性があるからです。

例えば人に教えるのが得意だとしたら、他人に教える場をつくることで人生の意義を感じるかもしれません。教える場を持つために、自身の専門性を証明できる資格を持つといった行動も起こせますし、それによって「本当の自分」に近づく感覚を持てるかもしれません。

もし特別な能力やスキルがないと感じるなら、次の質問に答えてみましょう。
「私の人生で一番の成果は何ですか?」
この質問で答えた一番の成果を生み出した原因を考えると、自分の特別な能力やスキルが見つかるかもしれません。

③過去を理解する

自分がどんな人間なのかを理解するための近道は、自分の過去を整理し、自分の未来につながるストーリーを考えることです。過去どんな人たちと、どんな場所で、何を考えて暮らしてきたのかを思い出すことで、未来に繋がる自分らしい生き方を考えてみましょう。

例えば子どもの頃に夢中になっていた遊びが、現在の仕事で必要とされている能力を鍛えたといったことが発見できるかもしれません。あるいは苦手だと感じていることが、過去の些細な失敗からきていることがわかるといったこともあるでしょう。そうした過去を自分の豊かな未来につなげていくように、それぞれ位置付けてみましょう。

④他人のために動く

ガンジーは「自分を見つける最善の方法は、他人への奉仕に身を任せること」と語っています。「偉大なガンジーならそうだろう」と思うかもしれませんが、私たちのような一般庶民にも通じるようです。

そもそも私たちは自分のために行動するより、他人のために行動する方が幸福度も高まります。自分にとって意義ある行動は、自分が楽しいと感じる行動ですので、他人のために自分の時間や労力を使うことで意義ある活動を見つける可能性は高まるのです。

今日は自分探しについて、心理学的に意味や方法をまとめてみました!
参考にしてみてください。

心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。

監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「The True Self」(Art Markman Ph.D./Psychology Today)/「A Guide to Finding Yourself」(PsychAlive)/「The Search for Your True Self」(Ilene Strauss Cohen Ph.D./Psychology Today)/「How to Find Yourself: 13 Ways to Discover the True You」(Rachel Sharpe/Declutter The Mind)

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