過労自殺が労災認定されるための3つの条件って?

通常の自殺の場合労災保険の対象にはなりません。しかし過労自殺は保険の対象です。ただ、認定のハードルは、それほど簡単ではありません。厚労省の指針から説明します。

  1. 1日12時間近く週6日働いていた
  2. 会社側は過労自殺を認めたがらない
  3. 認められるポイントは「強い心理的負荷」
  4. 過労の自殺・自殺未遂の労災請求は過去最高

1日12時間近く週6日働いていた

2016年6月21日の『朝日新聞デジタル』が、大阪西労働基準監督署が労災認定しなかった事案を、再審査を求められた国の労働保険審査会が認定したと報じました。労基署の判断が国の労働保険審査会で覆ること自体、きわめて異例です。

事件は2009年4月に発生しました。金券ショップの店長だった男性が店で自殺。遺族側は「1日12時間近く、週6日働いていた」「亡くなる約5ヵ月前から会社の新規事業の立ち上げにかかわり、休日をとれない1ヵ月間の連続勤務があった」などと主張。また、売り上げ拡大の圧力を社長からかけられ、定休日も社長の出張に同行するなどしてうつ病を発症。その結果、自殺にいたったと労災の認定を求めました。

しかし会社側は、達成困難なノルマもなく、新規事業の担当になってもいない、社長との同行の出張も仕事ではなく息抜き、と主張。遺族側と意見が対立しました。結局、地域の労基署も、不服申し立てを受けた大阪労働局も、自殺と仕事の因果関係を認めませんでした。

会社側は過労自殺を認めたがらない

労働者の自殺については、近年、雇用者側の「安全配慮義務」違反を問い、高額の賠償金を言い渡す判決が増えてきています。そのようなこともあり、労災の調査においても雇用主である企業が自殺と仕事の因果関係を否定する傾向にあります。

そもそも自殺は労働者の故意による死亡と考えられるため、通常であれば労災保険給付の支給対象になりません。ただ例外的に、業務上の心理的負荷による精神障害を原因とする自殺については、業務上の死亡として労災認定されるのです。

業務上の心理的負荷による精神障害とそれを原因とする自殺の労災認定は、以3つの要件が定められています。

①認定基準の対象となる精神障害を発病していること

② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヵ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

認められるポイントは「強い心理的負荷」

ここで大きなポイントとなるのが、「業務による強い心理的負荷」です。厚生労働省の指針は、②の要件について「業務による具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたこと」と説明しています。この指針の基本にあるのが、精神障害は仕事だけではなく、さまざまな要因で発病するという事実です。例えば業務以外の心理的負荷や既往歴など、当人に要因があるケースも考えられます。それだけに職場でケガをするといった通常の労災認定と異なる難しさを抱えているのです。

また、この②の要件については、「強い心理的負荷」が6ヵ月より前に起こっていたから労災が認められないといったケースを生むことになっています。例えば1年前の衝撃的な出来事が自殺の引き金になったとしても、労災に認定できない可能性があるということです。

過労の自殺・自殺未遂の労災請求は過去最高

2018年7月末に公表された2017年度の「過労死等の労災補償状況」によれば、過労などが原因で精神障害となり労災請求した人は1732人。4年連続で過去最高の数を更新しました。そのなかで自殺や自殺未遂による請求は221人に上ります。これは過去5年で最大の数です。

精神障害による労災請求の増加は、精神障害であっても労災認定される可能性があることが認知され始めたからという分析もあります。しかし労災認定される自殺者・未遂者が毎年100人近くいること自体、大きな問題といえるでしょう。メンタル不調が深刻化する前に援助する方法を、社会全体で考える必要がありそうです。

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