男性の育児休暇を司法も応援

男性の育児休暇の取得率は少しずつ上ってはいます。しかし、実際に取るとなると勇気が必要だと感じる人も多いでしょう。そんな人の背中をトンと押すような判決が出ましたのでご紹介します。

  1. 育児休業で昇給が認められないのは違法と判断
  2. 司法からの強いメッセージ
  3. 目標値は取得率13%

育児休業で昇給が認められないのは違法と判断

2019年4月24日、大阪地裁は、男性職員の育児休業申請で定期昇給が認められなかったのは、育児・介護休業法に違反するとして、被告である大学に約50万円の賠償を命じました。この裁判で大学側は、12ヵ月勤務が昇給の条件で、休業すれば昇給の対象ではないと主張していました。

原告の職員は、2015年11月から翌年7月までの9ヵ月間に育休を取得し、2016年4月の昇給が認められなかったのです。

判決では、原告の職員が2015年度の4月~10月までの7ヵ月間働いていたことに言及。「勤務の功労を一切否定するのは不合理だ」と言い渡しました。また、大学側のこのような措置について、「将来的にも昇給の遅れが継続し、不利益は大きい」とも述べています。

大学側としては、他の休業でも12ヵ月働いていない場合は昇給を認めていないことを理由に、育児休業を理由とする不利益な取り扱いではないと主張しましたが認められませんでした。

司法からの強いメッセージ

育児・介護休業法の第10条には、「事業主は、労働者が育児休業申出、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定めてあります。さらに2009年に厚生労働省が出した指針には、「昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと」を、不利益取り扱いの具体例として挙げています。つまり育児休業後の昇給停止は、企業側の言い分がどのようなものであれ、不利益取り扱いと認定される可能性が高いでしょう。

冒頭の判決以外にも、2014年7月には、3ヵ月以上育児休業した従業員の職能給を昇給しないという社内規則により、昇給を認めなかった原告の病院に、大阪高裁が賠償を命じています。病院の就業規則が、育児・介護休業法が労働者に保障した育児休業の趣旨を実質的に失わせるものだという裁判所の指摘は、法の精神をないがしろにする就業規則は認められないのだという強いメッセージが込められていると言えるでしょう。

もちろん育児休業による不利益と思われる取り扱いのすべてが、法律違反になるわけではありません。厚労省が出した「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」には、「業務上の必要性から不利益取扱いをせざるを得ず、業務上の必要性が、当該不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情」について、詳しく解説しています。

目標値は取得率13%

すべてを書くことはできませんが、例えば「債務超過や赤字の累積など不利益取扱いをせざるを得ない事情が生じているか」 「不利益取扱いを回避する真摯かつ合理的な努力(他部門への配置転換等)がなされたか」といった判断基準が書かれています。

ただ、司法・行政とも育児休業を拡大していこうという方針の中、不利益取り扱いが認められる「特段の事情」はかなりシビアに判断される可能性が高そうです。

厚労省の2017年度の調査によれば、女性の育児休業取得率が83.2%なのに、男性は5.14%に過ぎません。男性の育児休業取得率を上げようと、政府は2020年に13%という目標を掲げています。大手住宅メーカーで、男性の育児休業が義務化され話題となりましたが、政府が掲げた目標の達成は簡単なことではなさそうです。それだけに意識改革に逆行する社内規則については、司法だけではなく、社会からも厳しい目が向けられることになりそうです。

育児休業に関連する旧態依然の就業規則が残っている企業は、ルールをどのようにするのかを検討すべき時期だと言えるでしょう。

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