自分の部屋を見回して、モノの多さにうんざりすることはありませんか?思い出の品や昔読んだ本やマンガ、体型的に着るのを躊躇するようになってしまった衣類などなど。捨てられない気持ちを引き起こす「所有意識」についてまとめてみました。
- 捨てるのも簡単ではない
- 特徴① 働きかけたエネルギーが多い分だけ所有意識が強まる
- 特徴② 失うものに注目してしまう
- 特徴③ 以前の低い生活水準に戻れない
- 特徴④ 自分の所有物を過大評価する
捨てるのも簡単ではない
近年、モノを捨てるのが大ブームになっています。不要な物を捨てていくことで物への執着から離れようとする「断捨離(ダンシャリ)」。持ち物をできるだけ減らし、必要最小限の物だけで暮らす「ミニマリスト」。大量消費を煽る宣伝に踊らされ、モノに囲まれすぎた生活にちょっと疲れてきた現代人の新しい生活スタイルとして、注目を集めました。
ただ、実際に実行するのは、そんなに簡単ではありません。
捨てようと思ってタンスを開けたら、過去の思い出に浸ってしまい、なかなか捨てられなかった。いざ捨てようと思ったら、今のダイエットで2キロ減量すれば着られるかなと思って、服をタンスに戻してしまった。
そんな経験がある人も少なくないでしょう。
しかし、こうしたモノへの執着は、どうして生まれるのでしょうか?
考えてみれば、何年も袖を通していない服を大事にする必要があるか疑問です。実際に他人から見れば、「ゴミ」にしか見えないかもしれないのです。
こうしたモノを持つことに関連する不思議な感情について、行動経済学者のダン・アンエリー教授が「所有意識」として解説していますので、まとめてみましょう。
特徴① 働きかけたエネルギーが多い分だけ所有意識が強まる
ダン・アンエリー教授は、家具は組み立てた方が所有の意識が高まるとして、この効果を「イケア効果」だと説明しています。
これは植物などを考えればわかるでしょう。育てるのが難しく、花を咲かせるまでさまざまな努力が必要なものほど、人は愛着を感じてしまうのです。種さえまいておけば勝手に芽が出て花が咲くといった植物とは異なった感情が芽生えるというわけです。
つまり購入しただけではなくハンドメイドの要素が入ったものは、より捨てにくくなってしまいます。ちょっと不恰好でも、そこに掛けたエネルギーが物を捨てにくくするのです。
特徴② 失うものに注目してしまう
ダン・アンエリー教授は、この特性を愛用のフォルクスワーゲンバスで説明しています。人は愛着のある中古車を売って手に入れるお金より、中古車を失うことに注目してしまうのだ、と。
たしかに値段の上がったアンティークな商品を売れば、新しいものは買えるかもしれせんが、その商品を所有した過去の楽しい記憶が、新しい商品が生み出す新たな生活より魅力的に見えてしまうのでは捨てることはできないでしょう。
逆に言えば、捨てることに着目するのではなく、捨てた後の状況を考えると捨てやすくなるかもしれません。スペースが空いてスッキリする。中古として売って、さらにいいものを買うなど。捨てた後の未来に目を向けると、所有意識の「束縛」から逃れられる可能性は高まります。
特徴③ 以前の低い生活水準に戻れない
小さな家を売って、大きな家を買う。これは思い出が詰まっていても、比較的、やりやすいものです。しかし逆のパターンに人は我慢できない、とダン教授は説明しています。
「以前持っていた物にもどることが、急にどうしてもがまんできない損失に思えてしまう」という教授の言葉にうなずく人も多いでしょう。
こうした所有意識の結果、多くの人は生活の質を上げながら、必要ならいつでも低い生活に戻れると思っているけれど、それは「空想」でしかないのだそうです。
じつはこのような「空想」を、筆者も目の当たりしたことがあります。
友人からのお願いで弁護士の方と一緒に離婚した夫に養育費を払うよう説得したことがあったのです。すでに妻も子もいない4LDKのマンションに家賃滞納のまま住み続けていた元夫は、マンションを売り払い、家賃を下げていくばくかの養育費を払うことを拒みました。そのほうが生活も楽になるにも関わらず。
結局のところ思い出の詰まった豪華なマンションから、安いアパートに移ることが我慢ならないという話でした。滞納が続けば、より事態は困難になるとわかっていても、なかなか生活水準を落とすことに同意できないのです。
特徴④ 自分の所有物を過大評価する
人は自分に関するものを過大評価し、愛情を感じてしまう傾向にあります。そのため自分の車や家、子どもは、平均より上だと感じてしまいます。他人から見たら中古の家に過ぎなくても、自分にとってはアンティークなお屋敷に見えてしまう。そんな所有意識が、自分の持っているものの価値を変えていってしまうのです。
メルカリなどに出品される中古の美品なども、所有意識から考えると、出品者と購入者の間で価格が釣り合わないのも当然でしょう。こうした意識の差を認めることが、持ち物を減らすポイントの1つかもしれません。
参考:『予想どおりに不合理』(ダン・アリエリー 著/早川書房)