突然ですが、貯蓄していますか?どうにも貯まらないと思っているあなたは、「現在志向バイアス」が強い人かしれません。どんなタイプが貯蓄できるのか、また貯蓄するための行動の矯正は、どうやったら可能なのかを心理学から解説します。
- 目の前の利益に弱いタイプ
- イグノーベル賞を受賞した貯蓄方法
- 冷静になって我慢する
- 好きと嫌いを組み合わせて行動矯正
目の前の利益に弱いタイプ
日本人の貯蓄額は、金融広報中央委員会発表の『家計の金融行動に関する世論調査』によれば、二人以上の世帯だと20代で321万円、30代で470万円、40代で643万円、50代で1,113万円、60代で1,411万円となっています。もちろんお金持ちが平均を引き上げますので、実感より高い金額かもしれません。しかし多くの日本人は、しっかりと貯蓄に励んでいることがわかります。
とはいえ、貯蓄を苦手とするタイプがいることはわかっています。それが「現在志向バイアス」の強い人です。このタイプの人は、目の前の欲望を優先する傾向にあります。すぐに手にできる利益を我慢すれば、数ヵ月後により大きな利益を得られるとわかっていても我慢できないタイプなのです。計画に沿った形で欲望をコントロールできないため、貯蓄は最も苦手な分野の一つとなります。
コロンビア・ビジネススクールのステファン・メイヤー教授も、「現在志向バイアス」が強い人は、弱い人に比べて負債残高が大きいと論文で明らかにしています。
「教えて!gooウォッチ」の記事「貯金ができる人・できない人、それぞれの心理学的観点から見た特徴」で、心理学者の内藤誼人氏は、ミネソタ大学のロバート・ピーターソンの研究結果を挙げ、「男子大学生の職業志向を調べたところ、建築家志望、数学者志望の人が貯金を好みました。理知的というか、論理的な人ほど、貯金を好むようです」と語っています。
しっかりと将来を理論的に設計できるタイプが、貯蓄に強いというわけです。
イグノーベル賞を受賞した貯蓄方法
では、「現在志向バイアス」の高い人が、貯蓄に励むためにはどうしたらいいのでしょうか?2011年に『サイコロジカル・サイエンス』に掲載された論文は、予想外の貯蓄術を教えてくれます。
この論文の実験では、実験参加者に700ミリリットルの水を飲ませ、それから45分間の課題を実施。その後、課題の報酬を次の日に16ユーロもらうか、35日後に30ユーロもらうのかを選択させました。するとトイレに行きたい人ほど、35日後の入金を選ぶ人が多かったのです。
これはトイレを我慢する状態と、すぐにお金がほしいという欲求を抑える状態の認知の形式が似ているために起こったと説明されています。つまり無駄遣いしそうなときほど、トイレを我慢すれば財布のヒモも固くなるというわけです。
給与日に派手に飲んでしまう日々が続いているなら、飲んでいるときのトイレの回数を減らせば、もしかすると出費は減るかもしれません。ただし健康問題もあり、あまりお勧めできる方法ではありませんが……。
冷静になって我慢する
行動経済学者のダン・アリエリーは、貯蓄を阻むクレジットカードの無駄遣いについて『予想通りに不合理』(早川書房)で、水の入ったコップにクレジットカードを入れて凍らせるという方法を示しています。
電子レンジに入れて氷を溶かせば、磁気が読み取れなくなってしまうので急激に溶かすわけにもいかないので、衝動買いにはカードを使えないという抑止力が働きます。
この方法自体は、やや面白いネタとして紹介されているものですが、目先の利益を優先したいという要求について、時間をかけて吟味してみることが「現在志向バイアス」に有効だとはいえるでしょう。
翌日の利益を選ばなければ、35日後に倍近い報酬がもらえるということを、紙などに書き出し冷静に判断すれば、「現在志向バイアス」のワナから逃れることができるでしょう。
好きと嫌いを組み合わせて行動矯正
行動経済学者のダン・アリエリーが示したもう一つの方法は、
「自分の好きなものと、嫌いだけれど自分にとってよいものとを組み合わせること」
と書いています。
例えばギャンブルなどに散財してしまう場合は、最初に予算の半分を貯金してからでかければいいのです。嫌いな貯金のすぐ後に、好きな行動が来ることで、衝動性を抑制できる可能性が高まります。
もちろん積立定期預金などで、給与からの天引きでお金が溜まっていく仕組みを導入する方法もあるでしょう。ただあまりに我慢しすぎると、大きな反動がくることも。好きと嫌い組み合わせてムダ遣いを防止できれば、精神的には楽かもしれません。
参考:『予想どおりに不合理』(ダン・アリエリー 著/早川書房)