絶対に忘れたくないと思っていた数々の記憶も、気付いてみれば霞の中。細部が思い出せなかったり、そのときの気持ちを思い出せなくなったりすることありませんか?どうすれば思い出しやすくなるのか心理学的に考えてみました。
- 香りは知覚的な記憶を呼び覚ます
- 記憶した環境の影響は?
- 記憶と感情の関連は?
香りは知覚的な記憶を呼び覚ます
「プルースト効果」という言葉を聞いたことがありますか?
これはマルセル・プルーストの書いた小説『失われた時を求めて』のワンシーンから名付けられたもの。主人公が紅茶に浸したマドレーヌを口に含んだ途端、その香りによって幼少期のことを思い出すシーンから、香りによって自身の記憶や感情がよみがえる効果を指すようになったのです。
香りが記憶と深く結びついていることは、比較的よく知られています。
脳科学的にも、臭覚が扁桃体と海馬という記憶と感情を処理する部位に接続されていることがわかっています。その結果、香りが過去の感情や記憶を一気に思い出せるトリガーになってしまうのです。
ただし香りにまつわる記憶を勉強などに活用するのは、難しいようです。というのも香りの引き出す記憶は知覚的なものであって、概念的なものではないからです。
逆に恋人と過ごした日々を当時の気持ちとともに思い出したいなら、恋人の使っていた香水をかいでみるといいでしょう。鮮やかな記憶が、香りとともに一気に思い出されるかもしれません。
記憶した環境の影響は?
記憶があいまいになってしまったとき、鮮明に思い出す方法の一つが記憶した状況を再現することです。
この記憶のシステムを研究したのが、スターリング大学のダンカン・ゴドンとアラン・バドリーの二人でした。彼らは水中と陸上で実験参加者に36個の単語を覚えてもらい、その暗記内容を水中と陸上でテストしたのです。その結果、水中で暗記したものは水中で、陸上で暗記したものは陸上の方が、多くの単語を思い出すことがわかりました。
これは水圧や自分の呼吸音などの感覚的な情報が、記憶の中に織り込まれ、思い出すときのトリガーとして働くからだと言われています。
こうした記憶の仕組みから考えると、勉強する場合は、テスト会場と同じような場所の方がテスト本番で思い出しやすくなることがわかります。例えば喫茶店で受験勉強をすると、コーヒーの香りやBGMが記憶のトリガーとして働く可能性が高まります。喫茶店での暗記はあまりおすすめできません。
記憶と感情の関連は?
では、感情と記憶はどのような関係性があるのでしょうか?
スタンフォード大学のゴードン・バウアーは、催眠術を使って気分と記憶の関連を探りました。
まず実験参加者に催眠術をかけて、悲しい気分か楽しい気分に誘導します。その上で、幸運に恵まれた人物と不幸な人物が登場する短い物語を読ませました。翌日、感情を誘導することなく、前日の物語を思い出してもらったところ、楽しい気分に誘導された実験参加者は幸運な主人公について、悲しい気分に誘導された実験参加者は不幸な主人公について、より多くを覚えていることがわかったのです。
そのときの感情に近い記憶が、より強く残るという人間の特性は、日々の過ごし方を考える上でとても重要です。
というのも落ち込んでばかりいると、より不幸な出来事だけを記憶する可能性が高いからです。逆に楽しい気持ちで過ごしていれば、楽しい気分に合った出来事がより強く記憶されることになります。
クヨクヨと過去を思い悩むことは、未来に残る記憶にも影響を与えるという事実を知れば、前向きに生きていきたくなりませんか?
クヨクヨした状態から抜け出すためには、自分が元気になるメニューを用意しておくことが有効だという説があります。なるべく早く立ち直れる工夫をして、不幸な記憶で脳を埋めないようにしたいものです。
監修:日本産業カウンセラー協会