お客様への資料作成に頭を抱えたりすることもあるのではないでしょうか。まして、分かりづらくてやっかいな仕組みの理解を促すような資料を作るのは、かなり大変です。そんな資料作成のポイントをまとめました。
①太字や赤字は意味がない
面倒の仕組みを、誰にでもわかってもらうように説明するのは、本当に難しいことです。そうした仕組みの資料、例えば金融や保険、機械の工学的な仕組みなどの説明に、太字や赤字を多用していませんか?
たしかに見やすくなりますが、そうした工夫に効果がないことは、心理学が証明しています。
カリフォルニア大学のシャノン・ハーブとリチャード・メイヤーは、雷発生のメカニズムを説明する文章が、どのように理解されるのかを実験しました。その結果、読者の注意を引きやすいように、文章の一部をイタリック体や太字にしても、読者の理解度とまったく関係がないことがわかったのです。
もちろん、理解がどれだけ難しいかの内容にもよるのでしょうが、文章の一部を視覚的に工夫しても、理解しやすくなるわけではなさそうなのです。
②本筋から外れる面白いネタはマイナスに
難しいメカニズムが理解してもらえそうにないからと、本筋からやや外れた知識で読者の気持ちをつなごうとするケースもあるのではないでしょうか。
カリフォルニア大学の実験では、雷によって「閃電岩」という石が作られるケースがあること、米国では雷で毎年150人が亡くなっていることを、文章に挟みました。
結果、雷発生のメカニズムの理解には、マイナスに作用することがわかったのです。特に文の冒頭に、このような情報を置いたときは実験参加者の理解度が最も低くなりました。
これは「ディテールの誘惑効果」と呼ばれるものです。詳細 で具体的な事柄は記憶にも残りやすく、文頭で本筋と関係ないディテールが説明されると、その概念に従って脳が活性化してしまうので、結果的に本筋の理解がおろそかになってしまうのだそうです。
面白くない説明だからと読者のことを考えて、本筋とあまり関係のない情報を文章に入れても仕方がないということなのでしょう。
③本筋と関連するディテールを冒頭に
ディテールが常にマイナスに働くわけではありません。
例えば雷の発生は静電気とメカニズムが一緒なので、冒頭に静電気の豆知識 ―― 静電気は3000ボルト近くあるといった話 ―― を書けば、静電気への知識が雷発生の理解を助けます。
理解してもらいたい内容と、ディテールをしっかりリンクできれば、難しい内容もわかりやすくなるというわけです。
ディテールで印象を強める
「ディテールの誘惑効果」は、陪審員裁判などでも影響があるという研究もあるそうです。心理学者のエリザベス・ロフタスによれば、目撃証言が詳細で具体的であればあるほど有罪になる可能性が高いとのこと。
例えば、目撃したときに、どんな飲料を飲み、どんな話をしていたのかといったディテールが陪審員の意思決定に影響するそうです。
映画などでも、一見何の関係にないように思えるディテールが記憶に残っていたり、真実味を増す結果に繋がることもあるのではないでしょうか。それと同じようなことが、裁判でも起きるのだそうです。
こうした効果を日常で応用することもできます。
なるべく相手の記憶に残しておきたい話をするなら、ディテールを大事にしなければなりません。もちろん細かな説明だらけでは相手も飽きてしまうので、どの部分を細かく話すのかは工夫が必要になります。
私自身、そうした「ディテールの誘惑効果」を感じたことがあります。
あるイタリア料理店のワインの説明でした。その方は実際に醸造元まで買い付けに行くので、ぶどう畑からどんな景色が見えて、どんな風が吹くのかまで詳しく説明してくれました。
残念ながら下戸なので、そのワイナリーのワインを買うことはありませんが、その話しぶりとワインラベルの記憶はいつまでも消えそうにありません。