やっとの思いで頂上まで登った富士山。そこから見下ろした最高の景色。記念にと撮影。
その写真を後から見たとき、その思い出される光景は「切り取られた」ほんの一部を写した写真よりも、どこまでも美しく広がっていませんか?
- 自分の目で見たものよりも広がる世界
- 広告を出すのなら、全く関係ないものを組み合わせるのが効果的
自分の目で見たものよりも広がる世界
デラウェア大学のヘレン・イントラウブとマイケル・リチャードソンは、『写真には写っていない背景まで思い出す』という現象を発見しました。
彼女らは実験参加者に背景を含めて詳細に記銘するように伝えた上で、花やピザ、自転車、電話などの画像をスライドで見せました。その後、見せられた4つの画像について描画再生を指示しました。
用紙には指定されたアイテムの名称とスライドの比率に相当する枠を印刷し、その枠内に見たものを描いてもらいました。
すると描かれた95%の画像が実際より小さく描かれ、実際には見せられていない画像の外側のものまで描かれていたのです!
この現象を境界拡張といいます。
広告を出すのなら、全く関係ないものを組み合わせるのが効果的
街の建物が建て替わってしまった後、そこに何があったかを思い出そうとしてもなかなか思い出せないことがありますよね。
失われた街並みは、その記憶まで失われることもあります。
この現象について検証した実験では、様々な風景を線画にして風景の中にあるアイテムを消したり、足したりしました。
すると、お風呂の風景でボディソープやシャワーホースが消された絵やお風呂に関係のあるカミソリを追加した絵より、お風呂と関係性が無い「うちわ」というアイテムが追加された絵の方がその変化に気付かれやすいという結果が出たのです。
このように、何かなくなるよりも新たに関係性のない何かが加わることの方が気付かれやすいことを【非対称的混同効果】と言います。
つまりアイテムが追加され、それによって風景全体のイメージや雰囲気が損なわれる場合の方が、私たちはその変化に気付くことができるのです。
逆に雰囲気に馴染んだ形でなくなっていく風景を、私たちは記憶にとどめることができないのです。近年、歴史ある町などでは景観に合わせて、派手なイメージカラーをおさえたコンビニエンスストアーが出店したりしています。こうした配慮によって、出店したコンビニだけを思い出してしまうといったこともなくなるわけです。
この「非対称的混同効果」は、注意喚起をしたい場合にも働いてしまうので要注意です。例えば忘れないようにと、コンピュータに付箋などを貼っている人。風景に馴染んでしまうと、付箋がはがれても気付きません。
こうした人の心理は広告や商品陳列にも応用ができます。
本当に注意喚起したいなら、その場の雰囲気を壊すような違和感のあるアピールをすればよいのです。ズラリと並んだ派手な広告に、同じように派手な広告を加えても気付かれません。どんなアクセントをつけて記憶に残すのかが重要なのです。
また、自分をアピールしたいときに、「非対称的混同効果」を使うことで効果を発揮できることがわかっています。例えば、いつもと違った雰囲気の服装で、かつ違和感のあるアイテムが1つ加わっているといいでしょう。とはいえ、それが好ましい人物として記憶されるのかどうかはセンス次第かもしれませんね。