しっかり自己主張できなくて、息の詰まる思いをしたり、自己主張が強すぎて周りの人と衝突し、「どうもうまくいかないな」と落ち込んだという経験をしたことはありませんか。そんなときには、アサーションの考え方が有効です。仕事でもプライベートでも実行できる爽やかな自己主張、アサーションについて解説します。
言いたいことも言えないそんな自分を変えたくない?
会社で理不尽な扱いを受けたとき、ママ友のおつきあいで不本意な出費を繰り返したとき、親戚づきあいで忙しいのに旅行参加を強要されたとき……あなたは、「耐えるしかない」とため息をついていませんか。
でも、そのまま耐え続けていると、言いたいことも言えない人生を送ることになってしまうかもしれません。人生は一度限りのもの。自分の意見をしっかり伝えて、もっと自由に生きたいですよね。「自分の意見を、相手や世間が理解してくれればいいのに」と、嘆いていませんか。でも、相手や世間はそう簡単に変わってくれません。自分を変えて、自由な人生を歩みましょう。
とはいえ、自己主張ばかり相手に押し付けていては、仕事上でもプライベート上でも、大いに問題が発生するでしょう。アサーションを学べば、相手を尊重しつつも自分の主張を表現することができるようになります。そこに生まれるのは、とても爽やかな人間関係です。
アサーションとは、自分も相手も大事にする適切な自己表現のこと
アサーションとは、自分の意思や要求をきちんと表明しながら、より良い人間関係を構築するためのコミュニケーションスキルです。自分の意見をきちんと言い、また相手の意見もしっかり受け止めることで、アサーションは成り立ちます。一見、とても簡単そうに思えますが、「自分」と「相手」の双方を大事にするバランス感覚が重要なポイントです。
「相手」だけを尊重し、「自分」の意志をおろそかにしがちな人は、自分の言いたいことが言えない受け身的なコミュニケーションになりがちです。これは遠慮深い人、優しい人として受け止められることもありますが、自分自身の主張と権利を守れない不十分なコミュニケーションをしているとも考えられます。
受け身的なコミュニケーションしかできない人は、不満や敵対心が自分の中で高まっていくケースが少なくありません。ともすると相手に悪気がなくても、相手のことを嫌いになってしまったり、被害者意識が生まれたりといった悪循環が生じます。これは、自分もつらいのですが、相手側も不利益をこうむっていることになります。知らないうちにあなたから悪者にされてしまっているのですから!
一方で、「自分」の権利ばかりを主張し、「相手」の言い分を聞かなければ、攻撃的なコミュニケーションが発生してしまいます。これがよくないことは、きっとわかっていただけるでしょう。周囲からは、扱いにくい人、わがままな人と見られ、人間関係はうまくいかないでしょう。
アサーションの目的は、「相手」の主張を認め、「自分」の主張も提示するコミュニケーションを行うことで、バランス良く、信頼が高まる人間関係を築くことです。これを、アサーティブなコミュニケーションと呼びます。
率直さと素直さがポイント
アサーティブなコミュニケーションのポイントは、素直に、率直に自分の意見を表明することです。そこに、その場にふさわしい対応をするという気づかいを加えます。
アサーションの根本にあるのは、「主張してみること」です。子どもに「これ食べる?」「あれが欲しい?」と尋ねて、「今はいらない」「欲しくない」と言われ、気分を害することがあるでしょうか。そう、コミュニケーションを行うときに何の駆け引きも考えない子どもは、常に素直に、率直に自分の意思を告げてくれます。しかし、そのまま大人が応用すると、その場にふさわしくない表現になってしまう可能性があるため、適切な言い方に変換する必要があるでしょう。自分の要求をシンプルに告げてみれば、相手は思いがけず、スッと応じてくれるかもしれません。
それだけで、今まで相手に感じていた苦手意識がなくなり、胸のつかえがとれることもあるでしょう。
「そんなにうまくいくはずがない」と思うのは、相手を心から信頼していない証拠かもしれません。相手と対等な信頼関係を築きたいと思えば、自分のほうから働きかけていく必要があります。何も言わないうちに諦めてしまうのは、相手にとっても不誠実です。率直な意見をシンプルに告げることで、あなたの誠実さを差し出しましょう。
プライベートで……気の進まないつきあいを、ウソなしで断れる
「今日、夕飯食べて帰ろうよ」と友人に誘われても、なんだか気乗りがしない日はあることでしょう。そんなとき、友人が誘ってくれたことに感謝しつつ、自分の意思を告げるには、どうしますか。
気の弱い人なら、自分がその日誘いに応じられない理由を重いものにしようとして、ウソをついてしまうかもしれません。「母親が病気で、早く帰らなければならない」「今日は別の約束があるから」「親戚の食事会がある」などなど。自分の意思ではなく、他の用事でしょうがなく行けないのだという言い訳ですね。
相手はきっと素直に引き下がってくれるでしょう。しかし後日、あなた自身が嘘をついたことをすっかり忘れていて、相手から「お母さん、大丈夫?」などと聞かれたとしましょう。その嘘はずっとついて回り、コミュニケーションをそこはかとなくぎくしゃくしたものになってしまうかもしれません。
この場合、率直に「今日は、やめておくよ」と言ってみてはいかがでしょうか。「誘ってくれてありがとうね。また今度行こう」と付け加えれば、相手の気持ちへの感謝を伝えられます。しかしここで相手が引き下がることなく、「相談したいことがあったんだけどな……」と言ったとします。「そういうことなら、話を聞いてあげてもいいかな」と感じたなら、「じゃあ、行こうか」と言えばいいのです。
そもそも、「気乗りしない」という理由で断りたかったのですから、意見が変わってもよいのでわないでしょうか。このとき、あくまで自分の意志で意見を変えたということを忘れないでください。
仕事で……無理な仕事の押し付けを、軽やかに断れる
上司に、むちゃな仕事の押し付け方をされたと感じたとき、「そんなの無理です!」とすぐに全否定していませんか。上司は、あなたの状況を知らずに頼んでみただけかもしれません。
また、無理と感じているのに、黙って引き受けてしまうのも問題です。
負担の大きすぎる仕事が来たと感じたら、冷静に自分の今の状況を告げてみましょう。そして、代替案や調整案を提案するのです。「明日までの仕事があるので、それが片付いてからでもいいでしょうか」「この仕事量でしたら、私のほかに2人ほど分担してお手伝いしてくださる人がいれば引き受けられます」など、条件次第では引き受けられる方向で話を進めれば、上司も状況を理解しながら提案を受け止めてくれるでしょう。
「ノー」から始まるコミュニケーションもある!
アサーティブな自己表現をするにあたっては、最初に「ノー」を相手に投げかけることを恐れないことも重要です。「ノー」から始まる、ポジティブなコミュニケーションもあると心に刻みましょう。自分の「ノー」も、相手の「ノー」も恐れずにいれば、きっと今よりもっと豊かな人間関係を築くことができますよ。
参考:『自己カウンセリングとアサーションのすすめ』平木典子、金子書房