不幸なことがどれほどの確率で自分に振りかかると思っていますか。他の人のことは客観的に判断できるのに、自分に関することだけ楽観的な認知が働くことを、ポジティブ・イリュージョンといいます。誰もが持ち得るこの幻想が人生にもたらす効果と弊害について、心理学的観点から解説します。
- 自分の子どもが世界一と思うのも仕方ない
- 誰もが抱えているポジティブ・イリュージョン(ポジティブ幻想)
- ポジティブ幻想が消え、現実を見すぎる人は要注意!
- 行き過ぎたイリュージョンは大事なものを見落とすことも
- イリュージョンのコントロールで精神的安定をつかもう
自分の子どもが世界一と思うのも仕方ない
「わが子は日本一、いや世界一かわいい」。こんな親の言葉は、たいていは笑いながら聞き流されるものです。しかし、こうした言葉自体が、親の精神状態にとって重要なものだと言ったら驚かれるのではないでしょうか。
子育ては大変なものですし、不安に思うことも多々あります。「世界一かわいらしい」と思うことで、辛さを軽減しているのかもしれないからです。
誰もが抱えているポジティブ・イリュージョン(ポジティブ幻想)
現実よりも高い自己評価や将来予測を持ち、現実より周囲の出来事をコントロールできると思い込むことを、ポジティブ・イリュージョンと言います。けっこうな確率で起きる不幸でも、自分だけは大丈夫と感じるのは、そうした例の1つです。そのため実際に当事者になったときに、多くの人が慌てるのです。事故・病気・経済的困窮などなど、すべては自分と遠くにあるように感じ、自分だけは大丈夫と人は考えてしまうものなのです。
自分の都合の良いように認知を歪めている気はなくても、無意識のうちに認知はポジティブに傾いてしまうのです。
ポジティブ幻想が消え、現実を見すぎる人は要注意!
自分の置かれている状況をやや楽天的に捉えていることを、気恥ずかしく思う必要はありません。むしろ心理学的には、ポジティブ幻想が全くないと、精神的健康に多大なダメージを及ぼすだろうといわれています。確かに、「自分はきっと将来大病になるだろう」と考えておびえて暮らしていたら、かなり憂鬱な気分で暮らすことになります。
私たちはポジティブな幻想を持つことで、現状を受け入れ、明日に希望を持ち、自己評価をやや高く維持しながら健やかな気持ちで過ごせているといえるのではないでしょうか。うぬぼれや楽観的思考は、今を生きていくために自分自身も含めて誰もが抱えているものだと言えるのではないでしょうか。
行き過ぎたイリュージョンは大事なものを見落とすことも
ただ、行き過ぎたポジティブ幻想は、良くない結果をもたらすこともあります。心理学者のロビンらは、学生たちが入学してから卒業までどのような成績をたどったかを、自己評価の調査とともに追跡しました。大学入学時に成績の自己評価をさせて、また今後の成績予測を学生自身に行わせたのです。
すると、自分の成績についてポジティブな予想をした学生のほうが、その後の成績が良くなるということはありませんでした。さらにいえば、ポジティブ幻想の強い学生のほうに若干退学者が多い傾向がみられたといいます。ポジティブ幻想の強い学生らは、だんだん学科成績を重要視しなくなる傾向もあったとのことです。
イリュージョンのコントロールで精神的安定をつかもう
ちょっとだけ自己評価を上げるようなポジティブ幻想は、現実の生活にモチベーションを与えてくれます。しかし、過度にポジティブ幻想を取り入れてしまうと、性格が自己高揚的になり、周囲にもストレスを与えてしまいかねません。
自分の心に潜むイリュージョンを自覚し、上手にコントロールして精神的安定をつかみましょう。本当にピンチに陥ってしまったときには、幻想を捨ててごく現実的に考えることも大事です。常に自分の中のバイアスを意識することで幻想に振り回されず、むしろ大いに利用して有意義な人生に役立てましょう。
参考:『社会心理学』池田謙一ほか、有斐閣