80代で天寿を全うしても「まだ早いのに」とつぶやかれる高齢社会では、健康で元気に長生きしたいと思う人も多いのではないでしょうか。「子どもに迷惑をかけたくない」と思っている人は、亡くなる間際まで健康でいたいという思いも強いかもしれません。いつまでも健康でいるためには、「きょうよう」と「きょういく」が大事ってご存じですか?
そしてさらにまた「その先」も大事なんです。どういうことなのか解説します。
- 健康で長生きの秘訣「きょういく」と「きょうよう」の正体とは
- ただ興味のある場所に出かければいいだけではない
- 「画家は長生き」は本当?
- 表現を味わい、自分でもまた表現することで、健康で長生きの豊かな人生を!
健康で長生きの秘訣「きょういく」と「きょうよう」の正体とは
元気で長生きするには「きょういく」「きょうよう」が大事だと、シニア界隈では最近よく言われるようになりました。「きょういく」を一般的に変換すれば「教育」だし、「きょうよう」は「教養」ですよね。でも、実はこれ、ちょっと違う意味を持っています。
シニア界隈でいうところの「きょういく」は、「今日、行くところがある」。そして「きょうよう」は、「今日、用事がある」。つまり、家にこもってお決まりの生活をすることなしに、出かけたり、いろんなことに興味を持ったりすることが健康の秘訣だというわけです。
ゲートボールに社交ダンス、手芸、温泉めぐり、登山……シニアになってからも始められる趣味はけっこうたくさんあります。自分の興味関心に従って何かを始めれば、趣味仲間との交流も増えて、より毎日の生活が活発になることでしょう。
ただ興味のある場所に出かければいいだけではない
しかし、より健康で長生きするための趣味とはどのようなものかを考えたときには、知的好奇心を刺激する活動をおすすします。そう、ただ興味のある場所に出かければ、長生きできるわけではなそうです。
1万人を超えるスウェーデン人の老若男女を調査したところ、趣味活動の種類と死亡率の間には有意な差が認められたという研究があります(Konlaan et al.,2000)。研究結果によると、映画や美術館に出かけたり、読書をしたりといった芸術文化活動をたしなむ人の死亡率が低い傾向にあり、スポーツ観戦などを趣味としている人の死亡率は、長生きとは関係がなかったとのことです。
通常、「元気で長生きに」と考えると、旅行や登山、水泳、ジムなど身体を動かす趣味が思い浮かぶのではないでしょうか。そんなイメージとは違って、脳に刺激を与える活動のほうが寿命を長くするなんて、ちょっと意外ですね。
「画家は長生き」は本当?
スウェーデンでの芸術文化活動をたしなむ人の死亡率が低いという実験結果から思い出されるのが、「画家は長生き」という説です。聞いたことがある人もいるかもしれません。確かに、絵画や映像などの表現を鑑賞するだけではなく、自分自身で表現活動を行うことのほうが、脳は活発に動きそうです。だからと言って、脳を活発に動かしている画家は長生きである……そんな仮説が、本当に成り立つのでしょうか。
調べてみると、シャガールは98歳、ピカソ92歳、ミロ90歳、東山魁夷90歳、横山大観89歳、葛飾北斎88歳など、高名な画家を並べただけでもご長寿のオンパレード。小倉遊亀にいたっては105歳!
高名な画家がそろって長生きしているというだけでは、もちろん「画家は長生き」という仮説の論拠にはなりえません。長生きしたからこそ、後世に名を残すことができる画家となったのかもしれないためです。でも、私事ながら……先日102歳でこの世を去った筆者の祖父も、70代になってから30年近く水彩画を趣味としていました。後世に名を残しているわけではありませんが。
- 表現を味わい、自分でもまた表現することで、健康で長生きの豊かな人生を!
知的好奇心を満たし、脳を刺激する趣味は絵画以外にもたくさんあります。表現を味わいつくすと同時に、自分で表現活動することも、さらに脳を刺激することとなるのでしょう。俳句、短歌、写真、エッセイ、小説など、芸術の創作活動にチャレンジしてみませんか。きっと、健康で長生きの豊かな人生が、あなたを待っていることでしょう。
参考:『元気に老いる 実験心理学の立場から』(岡市洋子、二瓶社)