会社や自宅でははかどらないのに、なぜか喫茶店だとサクサク進む。そんな経験のある人は少なくないでしょう。そんな不思議を心理学の観点から考えてみました。
- カフェやファミレスでの作業はなぜはかどる?
- 周りに他の人がいるということがメリット
- 手慣れた作業や単純作業ならカフェ・ファミレスで!
カフェやファミレスでの作業はなぜはかどる?
カフェやファミレスに行くと必ずといっていいほど遭遇する、食事のかたわら本やパソコン・タブレットを広げて何やら作業をしている人。社会人に限らず若い学生の姿も見られ、ときには一人で、ときには複数名で、真剣に仕事や勉強をすすめているその様子、誰しも一度は見たことがある光景ではないでしょうか。あるいは、自分自身がその一員として、カフェやファミレスを作業場所にした経験があるという人も多いはずです。
ではなぜ、自宅よりもカフェやファミレスのような場所を作業場所に選ぶ人が多くいるのでしょうか。
自宅の場合、自分の趣味のアイテムに気が散ったり、仕事や勉強に対して気が進まないと掃除などに逃避してしまったりするから? もちろんそのような理由も十分あるでしょうが、心理学を知っていると、他にも関係しそうな要因に気づくことができます。
カフェやファミレスだと作業がはかどる! という人の心理を知るうえでのキーワード、それが心理学で「社会的促進」と呼ばれている現象です。
周りに他の人がいるということがメリット
「社会的促進」とは、何かの課題に取り組むとき他者が存在することによって、一人で取り組むよりも良い結果が出せることを指します。この場合の他者は、一緒に同じ課題に取り組む人と周りで見ている人のどちらも含んでおり、前者のように一緒に取り組む人がいることによる効果を「共行為効果」、後者のように周りで見ている人による効果を「観衆効果」といいます。誰の協力も監視もない自宅での作業より、一緒にいる相手と競い合ったり、周りからの視線を意識して頑張ってみたりする方が、成果を出しやすいということですね。
そして驚くべきことに、この「社会的促進」は鳥類や哺乳類はもちろんのこと、ゴキブリのような虫にも起こる現象だということがわかっています。社会心理学者のロバート・ザイアンス博士が実験したところによると、一匹のゴキブリが博士の用意した迷路をクリアできるかどうか試したとき、周りに仲間のゴキブリを配置した場合の方が速く解くことができたというデータがあるそうです。この場合のゴキブリは、「観衆効果」によってパフォーマンスが向上したのだといえるでしょう。
カフェやファミレスではグループで一緒に勉強できたり、他のお客さんや店員さんの手前、余計なものに手を出さず真剣になれたりするところが、自宅や図書館などと比べて作業場所に適していると感じる人が多いのかもしれません。
手慣れた作業や単純作業ならカフェ・ファミレスで!
ただし、どんな作業であってもカフェやファミレスが最適というわけではありません。先ほど紹介したザイアンス博士の実験では、他にも明らかになった点があります。ゴキブリに簡単な迷路と複雑な迷路を解かせたところ、複雑な迷路については仲間がいる方が解くまでに長い時間を必要としたのです。作業内容が慣れたものや簡単なものであれば、仲間の存在によって良い結果を出せますが、複雑であったり、これまであまり経験してこなかったりする内容だと、仲間の存在が逆にプレッシャーになってしまうようです。
もしみなさんが自宅ではなくカフェやファミレスで作業したいと思っても、これまで取り組んだことのない、あるいは複雑でクリエイティブな課題に挑戦する場合は、他の人がいない静かな場所で集中して作業する方が良いかもしれません。単純作業や日ごろから慣れている作業であれば、カフェやファミレスを使うとはかどりそうです。
なお混雑時にはお店や他のお客さんの迷惑になりかねないので、いくらはかどるとはいっても長時間の利用は控えることをおすすめします。
参考
対人社会心理学 重要研究集1(誠信書房)
心理学ビジュアル百科(越智啓太 著/創元社)
「社会的促進及び抑制の発生機序の解明と理論構築 ―Zajonc 動因説を越えて―」 (請園 正敏)
「Social facilitation of long-lasting memory retrieval in Drosophila.」
(Chabaud MA1, Isabel G, Kaiser L, Preat T.)