最近、年金の不足分をどうやって捻出するのかが大きな話題になっています。多くの方が退職金を老後の生活資金として計算に入れているのではないでしょうか。そんな退職金の重要判例をご紹介します。
- 署名はしてしまった!?
- 具体的な説明が必要
- 退職金は生活費に
- 司法は退職金の減額・不払いに慎重
署名はしてしまった!?
2016年2月20日、最高裁で退職金に関する重要な判決が下されました。
信用組合の元職員12人の退職金が合併によってゼロになったとして、8000万円の支払いを求めた裁判において二審判決を破棄、東京高裁に差し戻したのです。
この事件の争点の一つは、元職員が退職金の計算方法などを記した書類に署名していることでした。この事実を重く見た一審・二審は、「署名すれば合意したことになるとわかったはずだ」と断じたのです。
具体的な説明が必要
しかし今回の最高裁判決では、「雇用主の命令に服する立場にある労働者は、情報収集にも限界がある」と指摘するとともに、使用者側は「退職金がゼロになる可能性など不利益の内容や程度について、具体的に説明する必要があった」と判断しました。また、同意書などに労働者の署名捺印があったとしても、「ただちに合意があったと考えるべきではない」とも述べています。
最高裁の差し戻し審においては、一・二審判決が覆ることがほとんどなので、今後、退職金の変更に伴う不利益について、使用者側がしっかりと内容の説明する必要が出てきたといえるでしょう。
退職金は生活費に
フィデリティ投信株式会社が実施した「退職者8000人アンケート 2015」によれば、退職金の使用目的のトップは、52.2%を記録した「定年後の生活費」でした。第2位は「ローン・負債の返済」で20.8%。つまり全体の7割以上が老後の生活を補助するお金として受け取っているのです。事実、退職金を「趣味」に使うと回答した人は、5.6%にすぎませんでした。
実際、このアンケート調査で退職後の生活についてたずねた項目では、54.6%の人が「生活資金が足りなくなる」など、退職後に金銭面の不安があると回答しています。
司法は退職金の減額・不払いに慎重
実際、退職金の減額に対しては、司法によってもかなり厳しく判断されてきた経緯があります。
まず退職金は、ほとんどの人が生活に使っているとしても労働基準法上の「賃金」ではありません。昭和43年の最高裁判例によれば、「労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確に定められていれば使用者には退職金の支払い義務が生じる」との判断が下されています。
その一方で、懲戒解雇の場合は退職金を支給しないという規定自体は法的に問題のないものの、規定があって懲戒解雇になった場合は必ず退職金が支払われないというわけでもないのです。退職金の不払いが許されるのは、「労働者の過去の労働に対する評価を全て抹消させてしまう程度の著しい不信行為があった場合でなければならない」(1994年 地裁判決)という判決もあるほどです。いずれにしても退職金の減額・不払いには慎重な対応が求められるのです。