非正規社員と正社員の待遇の違いについて、いくつかの判決が出て、手当の格差については企業も見直しつつあるようです。それは給与の格差を解消していく一歩になるのかもしれません。
- 差は認めるが不合理だとダメ
- 仕事内容と手当はどうつながるのか
- 正社員の住居手当も廃止
差は認めるが不合理だとダメ
日本郵便の非正規社員が正社員との格差の違法性を訴えた控訴の判決が、2018年12月13日、東京高裁で下されました。
有給の病気休暇と夏期冬期休暇が取得できない制度については、一審通りに違法と認定。住居手当と年末年始勤務手当の不支給については、一審同様に不合理と判断しました。ただ一審では正社員の6〜8割を賠償額として認定していましたが、今回は10割の認定となりました。
正社員と非正規社員の待遇の違いについては、同じく昨年6月1日に運送会社に下された最高裁判決が、一つの基準となっています。
同判決では、正社員と契約社員の就業規則が別個に作成されていることなどから、両者が同一の権利を有する「地位の確認」を求める訴えは認められないとしています。つまり司法は、正社員と契約社員の差自体は認めているのです。ただ労働契約法第20条が定める通り、「労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」としているのです。正社員と非正規社員の差については、「不合理」かどうかを個別に判断する必要があるということです。
仕事内容と手当はどうつながるのか
実際、6月の最高裁判決では、「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「皆勤手当」「通勤手当」については、正社員だけに支払われているのはおかしいと判断しました。一方、「住宅手当」については、転居を余儀なくされる配置転換がある正社員に住宅手当があるのは合理的であるとして、非正規社員との差を認め、損害賠償の対象としませんでした。
しかし12月の高裁判決では、配置転換のある正社員に住宅手当が加算されていること自体は合理的だと認めつつも、配置転換が予定されていない地域限定の正社員にも住居手当が支給されていることから、契約社員にだけ支払われないのは、合理的な理由があるとはいえないと判断したのです。
正社員と非正規社員の仕事内容の違いと、手当の差がつながっているのかが、合理・不合理を判断する基準の一つとなるのでしょう。
正社員の住居手当も廃止
じつは昨年4月、日本郵便は一審判決を受けて、すでに非正規社員と正社員の格差を解消すべく制度を改正しています。非正規雇用者にも年始勤務手当を支給する一方で、正社員の住居手当を廃止したのです。
住居手当がなくなっても、年収ベースで正社員がマイナスにならないよう要求している、と労組は説明しています。しかし今後、正社員と非正規社員の格差を埋めていく動きの中で、正社員の年収が削減されるケースも出てくるかもしれません。
政府が進める「働き方改革」の一環として「同一労働同一賃金」には、大きな注目が集まっています。パートタイマーの公正な待遇を確保するために、2020年4月1日には、改正パートタイム労働法(パートタイム・有期雇用労働法)が施行されます。
開きすぎた格差を解消していく流れは、今後も加速していくことでしょう。
南山大学法学部・緒方桂子教授は、6月の最高裁の差し戻し審の結果について、「踏み込んだ判断で、企業に厳しく対応を求めるものだ。今後は手当だけでなく、基本給や賞与でも企業は説明や是正を求められるのではないか」(2018年12月22日『朝日新聞』)と語っています。こうした格差是正の流れは、非正規社員の賃金を変えるだけではなく、正社員の賃金や仕事のあり方も変えていく可能性があることも、頭に入れておくべきでしょう。