「偉そうな人」と聞くと、なんだかあまりいい感じを受けないですよね。でも、偉そうな人は、本当に偉い人になる可能性が高いことをご存じですか。服装のトリックを使った心理実験から、私たちが身だしなみを整える本当の理由を探り出しましょう。
私たちは、残念ながら人を見た目で判断している
人を見た目で判断してはいけないと、私たちは教わります。そして「自分は、人を見た目で判断するような人間ではない」と考える人は多いかもしれません。また、「ボロは着ていても心は錦」と古めかしい言葉を唱えつつ、わざと質素倹約がにじみ出るような格好を貫いている人もいるかもしれません。
しかし、私たちは、残念ながら人を見た目で判断しているようです。心は錦でも、ボロをまとっていてはそれが全く表面には表れてこず、あなたの自己満足で終わってしまうかもしれないのです。どうしてわざわざそんな厳しいことを言うかといえば、私たちの見た目は、私たちが思っているよりもはるかに人に与える印象を左右しているからです。
警備員の制服を着てお金を出させる心理実験!?
社会心理学者のレナードは、次のような心理実験を行いました。パーキングメーターのそばに男性を立たせ、さらにそこから15メートルほど離れたところに実験者を立たせます。実験者は通行人を呼び止め、メーターのそばの男性を指さしてこう言います。「あの男性が駐車時間を超過してしまいまして、しかし彼は小銭を持っていないというのです。どうか、10セント硬貨をあげてくれませんか?」
あまりにも突飛なお願いだと思うでしょうか。しかし実際には、声をかけられたほとんどの通行人が、この依頼に従ったのです。このとき、実験者は警備員の制服を着ていました。
さらに、警備員の制服ではなく普通の服装をした実験者が同じ依頼をしたとき、頼みを引き受けた通行人は半分にも満たないという結果が出ました。この心理実験からは、私たちがいかに人を見た目で判断しているかを示しています。パッと見の判断で、なんと見返りなしにお金を提供してしまうとわかったのですから、本当に怖いですね。
「お金がないから、それなりの格好を」は、本当に正しい?
見栄えが良く、そして権威的な態度を貫いたほうが、人は言い分に耳を傾けてくれる――このような心理効果を、詐欺師などは巧みに活用します。仕立ての良いスーツを着て、名刺にはもっともらしい肩書を並べ、第一印象で信頼を勝ち取ろうとするのです。
「それがわかっているからこそ、見栄えを自分の能力以上に整えるのには抵抗があるんだよなあ」とつぶやく人もいるかもしれません。なかには、「実際に、自分にはお金も威厳もないのだから、ないなりの格好をしなければならない」と思う人もいるでしょう。しかし、もしかしたら、その慎ましやかな姿勢こそが、あなたの本当の価値をゆがめているかもしれませんよ。
思い返してみてください。あなたが尊敬する人は、すでに名誉や権威を持っているのに、身なりを気にしなかったり質素な服を着ていたりする人物ではありませんか。その人は、もう世間からの評価を十分に得ていますから、たとえ素裸でいたって権威が消滅することはありません。
対してあなたはどうでしょう。名誉や権威がまだ十分に備わってない状態でボロをまとったとしたら、ただ貧弱そうな人間がそこに立っているだけにみられるかもしれません。
そう、身だしなみを整えて、見栄えをよくすることは、自分自身の価値を引き出す努力の一環なのです。
ときには見た目を有効活用して、自分の価値を引き出して
セールスがうまくいかない、部下や同僚が協力的になってくれない、家族が常にそっけない……そんな悩みを持つ人は、ぜひ身だしなみと服装を見直してみましょう。自分ではきちんとしているつもりでいるなら、身近な人にチェックしてもらうのも一つの方法です。パリッとした服装を心がけ、清潔感を保つことができれば、それだけで周りの態度が変わってくるのを感じるかもしれません。
また、フリーで仕事をしている人にとっては、身だしなみや服装がとくに重要です。「フリーランスはドレスコードがないのだから」と、打ち合わせにラフすぎる格好で参加していませんか。信頼関係を十分に築いている相手であればいいのですが、まだお付き合いの浅い取引先の場合は、身だしなみにとくに注意しましょう。服装を変えるだけで、あなたの言動が相手に与える印象をぐっと変えることをお忘れなく!
参考:『影響力の武器 説得の秘訣 第三版』ロバート.B.チャルディーニ、誠信書房