残業代を払いたくないからとしか思えない「名ばかり管理職」の話が報道されるケースもありますが、そもそも本当の管理職と「名ばかり管理職」の違いはどんなものでしょうか?
- 権限や裁量権がない管理職?
- 管理職は労働時間も自分で決められる!?
- 未払い残業代が高額なケースも
権限や裁量権がない管理職?
2017年10月、東京地裁は大手スポーツクラブの元支店長の訴えを認め、未払いの残業代約300万円と制裁金にあたる付加金90万円の支払いを命じました。裁判所は、原告について「裁量が相当に制限され、管理監督者の地位にあったとは認められない」との判断をくだしています。つまり権限や裁量権のない「名ばかり管理職」であったと断じたのです。
労働基準法41条2号に定められた「監督若しくは管理の地位にある者」は「管理監督者」と呼ばれ、時間外労働や休日労働をしても割増賃金を支払う必要がありません。役職に就くと残業代が支払われなくなるのは、こうした法律の規定によるものです。
管理職は労働時間も自分で決められる!?
ただ「管理監督者」の基準は、一般的な「管理職」のイメージとはかなり違っています。労働者が訴えれば、残業代が支払われていない「管理職」の結構な人が裁判所から支払い命令を受ける可能性があるほどです。
では、どのような労働環境であれば、「管理監督者」と認められるのでしょうか。
平成20年9月、厚生労働省は多店舗展開する小売業や飲食業の店舗の「管理監督者」の基準に対する通達を発表しています。この基準は他業種でも、適応される可能性が高いので内容を簡単にまとめてみます。
①アルバイトやパート等の採用・解雇・人事考課・労働時間の管理に責任と権限を持っていること。
②労働時間に裁量権があり、遅刻や早退が人事考課でマイナス評価を受けないこと。
③割増賃金がなくとも、基本給や役職手当などが十分に支払われており、時間単価に換算しても店舗のアルバイトやパート等の賃金より高額であること。
またこの通達では、人手不足によりパート・アルバイト等の仕事に長い時間を割かなければならないケースも、「管理監督者」とは認められないと書いています。
さらに過去の判例には、「管理監督者」には「経営者と一体的な立場」といえる職務権限が与えられている必要があると書いてあるのです。
つまり「仕事同じなのに残業代が出なくなったから、なんか賃金下がったよ」といった愚痴が出たり、タイムカードでがっちりと管理されて9時に出社しないと上司から怒られるといった状況では「管理監督者」と認められない可能性があるのです。
すでに会社内で管理職としての地位にある従業員でも、労働基準法上の「管理監督者」には当てはまらない場合もあるので要注意です。
未払い残業代が高額なケースも
この判決では、備品の購入やアルバイトの採用に本社の決裁が必要であったこと、役職手当が5万円だったこと、従業員と一緒にフロントなどのシフト業務に入らざるを得ず時間外労働が恒常化していたことが指摘されています。これでは原告が「管理監督者」であるはずもなく、庶民感覚からしても違和感のない判決といえるでしょう。
しかし多店舗展開していない、本部が統括していないような企業でも、「管理監督者」と呼べない「管理職」が特に疑問を持たず、残業代をもらわず働いているケースが少なくありません。上司の指示に従って働く部長・課長が会社を訴えた場合、かなりの未払い金が認められる可能性があります。
コスト抑制のために「名ばかり管理職」を量産している企業はもちろんのこと、このような規定を知らない企業の未払い金の支払いが続けざまに命じられれば、かなり大きな額となります。実際、今年3月に出された「名ばかり管理職」に対する未払い残業代は、1000万円でした。「名ばかり管理職」が団結して訴えを起こせば、会社の経営にも大きな影響を与えるでしょう。
労働者のためにも、知らずにリスクを抱えている企業のためにも、頭に入れておきたい法律知識の一つです。