部下や後輩の扱いが難しいと感じることはありませんか? 叱れば「受け入れられていない」と非難され、ホメれば「本当にそう思ってる?」と不審がられる。心に正しく届かない状況を改善する方法を考えてみました。
- 「考えていることがよくわからない系」の部下を、どう評価する?
- ギロビッチ博士が紹介した心理実験
- 意識して丁寧なフィードバックを
- もちろん、部下の話を聴く「傾聴力」も高めて!
「考えていることがよくわからない系」の部下を、どう評価する?
厳しく接すれば部下の心が離れてしまい、大げさにホメれば疑わしげな眼で見られる――。メンターが陥るこのような状況を「メンターのジレンマ」と言い表しているのは、心理学者のトマス・ギロビッチ教授です。ギロビッチ教授はとくに先生と生徒の関係性に注目し、とくに人種的あるいは経済的に異なる生徒たちに先生がフィードバックを与えるとき、適切で具体的な指導をすることがなかなかできないということに問題点を置きました。 「人種的あるいは経済的に異なる生徒たち」は、年代の全く違う部下にも当てはめることができるのではないでしょうか。「宇宙人」や「新人類」など、新しい社会人たちにはさまざまな名称が与えられてきましたよね。彼らの価値観が、年代が違うと全く理解できないのと同じように、新入社員たちもまた受け入れられない疎外感を抱えているのかもしれません。
ギロビッチ博士が紹介した心理実験
ギロビッチ教授は、著書『その部屋のなかで最も賢い人』の中で「メンターのジレンマ」を解消する方法の糸口となる実験を紹介しています。実験は、中学1年生を対象に行われました。
指導者は、提出されたレポートを採点して渡すとき、生徒を正直に評価するとともに、高い水準に照らして評価しているのだということをはっきりと伝えました。さらに、「この高い水準に君が到達すると、私は信じているよ」と伝えたのです。
リアルな評価と期待の両方を伝えるようにしたところ、レポートの書き直しに応じて再提出した生徒の割合が、7パーセントから71パーセントへと劇的に増加しました。さらに2度目の実験では、期待をにじませるフィードバックを受けた生徒の方がより優れたレポートを書いたといいます。
さらに、この実験では、白人の生徒よりもアフリカ系の生徒の方がより反応が良かったとのこと。この実験結果について、ギロビッチ博士は次のように分析しています。
「この種の賢いフィードバックの効果は、自分自身や同じ人種に属する生徒たちが決まって受けている扱いについて最も強い不信を表していた生徒たちのあいだで特に目立っていた」
わかりにくい表現ですが、人種問題など不信感を抱きやすい関係性にある人の方が、よりフィードバックの効果が高かったということでしょう。
意識して丁寧なフィードバックを
もちろん、教師と生徒の関係性を、メンターと新入社員、上司と部下などにそのまま当てはめることはできません。しかし、部下との関係性に悩んでいる人には、この実験結果がいくばくかのヒントになるのではないでしょうか。
まずは、過度に称賛したり激しく叱責したりすることなく、正直な評価を与えること。そして、どんな評価軸に照らして評価しているかを明らかにすること。さらに、「あなたはもっと高みに行けると信じている」と伝えることが、部下に安心感を与える大事なポイントになりそうです。
正直な評価を伝えることは、メンターが部下に誠実な対応をしているということを示すことになります。評価軸を明確にすれば、他の社員との公平性を感じてもらえるでしょう。そのうえで期待を伝えれば、「このメンターは、本当に自分を見てくれている。期待をしてくれている」と感じさせることができるのではないでしょうか。
もちろん、部下の話を聴く「傾聴力」も高めて!
メンターともなれば、部下に助言を与えなければと一生懸命になりがちです。しかし、部下の話を聴くことは、もしかしたらアドバイスを与えるよりもさらに重要かもしれません。
「傾聴力」という言葉があります。傾聴とは、相手の話をよく聴き、考えを尊重し、そして気持ちに寄り添って対応すること。傾聴力を高めてさらなる信頼を獲得し、部下とより一層強固なパートナーシップを築いてはいかがでしょう。
参考
『その部屋のなかで最も賢い人』(トーマス・ギロビッチ 著/青土社)