共感覚って知っていますか? 一つの感覚の刺激によって別の感覚が引き起こされるというもの。そんな共感覚について調べてみました。
- 音を聴いて色を感じる? 共感覚の不思議
- 芸術家には共感覚の持ち主が多い。あのアーティストも…
- 共感覚を持たない人でも共感覚を体験できる?
音を聴いて色を感じる? 共感覚の不思議
共感覚の具体的な例としてはモノクロの文字や数字を見たときに色がついて見えたり、音楽を聴くと色が見えたりするという現象があります。
色に限らず、においや音や形など、何の感覚から何の感覚が引き起こされるかというパターンは個人によってさまざまで、これまでに150種類以上の共感覚のパターンが発見されているそうです。
こんな説明を読んでも、共感覚を持たない人にとってはあまり理解できない内容なのではないでしょうか。薬などの影響で幻覚を見るのと、どうちがうのと思われるかもしれません。実際、共感覚自体は100年以上前から知られている現象ですが、脳の活動を客観的に観察できるようになるまでは、非科学的なものとされ研究が進んできませんでした。
しかし、ここ30年ほどでfMRIのような脳機能イメージング技術と呼ばれる技術が進化したことで、たとえば音楽を聴いたときに本来反応する脳の聴覚野という部位以外に、視覚野の色知覚野が活動している様子が客観的にみてとれるようになりました。共感覚が単に変わった人たちの幻覚などではないということがわかってきたのです。
共感覚はインドの神経外科医ヴィラヤヌル・ラマチャンドラン氏によれば、200人に一人の割合で存在するといわれています。一説にはもっと高い割合で存在するともいわれ、芸術家により高頻度で出現する、遺伝性があるなどといった情報もありますが、なぜ共感覚が生まれるのかといった詳しいメカニズムについては、いまだ研究途上です。
芸術家には共感覚の持ち主が多い。あのアーティストも…
芸術家には高い頻度で共感覚の持ち主が生まれるといわれていますが、具体的にはどんな顔ぶれなのかを見てみましょう。
有名どころでいえば、音楽の「神童」ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。彼は音に光が見えるという共感覚の持ち主でした。また、フランスの詩人アルチュール・ランボーや、ロシアの作家で『ロリータ』を書いたウラジーミル・ナボコフは、文字に色がついて見えたそうです。彼らのような芸術家が共感覚を持つ場合、通常では関連付けられないようなアイデア同士を結び付け、それを創作や物事の記憶に活かすことで素晴らしい作品を生んでいるのではないかといわれています。
昔の有名人だけではなく、最近の有名アーティストにも共感覚の持ち主は存在します。ニューヨークを中心に活動する気鋭の若手キーボード奏者で、ブルーノート東京での演奏も大好評だったジェイムズ・フランシーズは、音を聴くと色を感じるという共感覚を持っています。そして2019年最大の新人といわれるシンガーソングライターのビリー・アイリッシュは、音を聴くとにおいや色や感触がついてくるという、複数の感覚が引き起こされるタイプの共感覚の持ち主だそうです。
二人ともその共感覚をアーティストとしての活動に活かしているようで、ビリー・アイリッシュについては新作のアルバムを宣伝するイベントとして、収録されている曲ごとに部屋を作り、そこに彼女が楽曲制作時に感じていた世界を再現するという体験型ミュージアムをロサンゼルスで企画・開催しました。期間限定のミュージアムだったことから短期間で終了してしまった企画ですが、訪れた人は映像や音、におい、温度などからビリーの頭の中の世界を体感することができました。
共感覚を持たない人でも共感覚を体験できる?
ビリー・アイリッシュの体験型ミュージアムのように、共感覚の人の世界を他の人も体験できる装置が、2019年に日本で登場しています。クリエイターでゲームデザイナーである水口哲也氏が中心となって生んだ「シナスタジア X1 – 2.44」は、「共感覚的体験装置」といわれる椅子型の装置で、音・光・振動によって、共感覚そのものではないものの「共感覚的」と呼べる体験を可能にしました。水口氏は2016年にも共感覚的体験ができるアイテムとして、「ゲームをプレイしながら音楽と共鳴できる」という全身スーツを開発しています。
これからVR技術のような新技術の進歩によって、よりリアルに共感覚を体感できたり、音・光・振動といったもの以外の感覚についても体感できたりするようなアイテムが、どんどん生まれてくるかもしれませんね。
参考
心理学ビジュアル百科(越智啓太 著/創元社)