鏡は自分を客観的に見るためのものじゃない!? 他者こそ自分の鏡

「ちょっと、鏡を見てみなよ!」と言われたら、顔に何かついているか、寝ぐせに気づかなかったのかな?と、ドキッとしてしまいます。このように鏡は、自分の外見を客観的にチェックするためのものと思われがちですが、心理実験が教えてくれる現実は違うかも!?「鏡と観衆」実験から、鏡に映っているものの正体を教えましょう。

  1. 外見チェックのために鏡を使うけれど
  2. クーリーの「鏡映自己」
  3. フローミングの「鏡と観衆」実験
  4. 実験から見えてくる「鏡」と「他者」の役割

外見チェックのために鏡を使うけれど

毎朝、身だしなみチェックのために鏡を使っていますよね。とくにファッションが好きな人、メイクをする女性にとっては、鏡は日々の外見確認に欠かせないツールです。そこには、「ほかの人から自分がどう見られているかを確認しておきたい」という心理が働いているといえるでしょう。

しかし、心理学的には、鏡が外面ではなくむしろ自己の内面を再確認するためのツールであるとも言われています。では、外面はどうやって確認すればいいのかといえば、それは、「他者」を鏡として使うのです。そして「他者」は、外面だけではなく、世間での立ち位置についても、無言であなたに教えてくれます。

クーリーの「鏡映自己」

社会学者のチャールズ・ホートン・クーリーは、身体的な特徴に関する自己意識や目標、野心といった感情をつくるのは社会生活であることに注目しました。そして、自分が他者を通して「自分はこう思われている」と自覚することで自己感情が作られると説き、「鏡映自己」という概念を提唱しました。

鏡映自己には3つの構成要素があります。ひとつめは、他者に見られている自分についての想像。2つめは、その姿に対して他人が下す評価の想像。3つめが、他人の評価に対する肯定や否定といった自分の感情です。

つまり、他者が何も言わなくても、自分は他者を通して自分を見、それに対してほっとしたり、反省したりするということです。考えてみれば、日常生活の中でも思い当たることはありますよね。私たちは他人の視線に一喜一憂しますし、もし無人島に流れ着いたら、1年後には身だしなみも世間体もどうでもよくなり、気ままに過ごしそうです。

このように、他者は自分を映す鏡なのです。では、実際に自分の姿を映し出す「鏡」は、どういった役割を果たしているのでしょうか? その疑問を解消した、ある実験があります。

フローミングの「鏡と観衆」実験

心理学者のフローミングは、人が鏡に向かっているときと、複数の他人と差し向かいで座っているときとでは、行動や認知にどのような違いがみられるのかを知るために、次のような実験を行いました。

「自分は体罰に否定的な意見を持っているが、世間一般の人々は賛成している」という認識を持つ学生たちをピックアップし、彼らに教師の役割を与えました。教師役は、生徒役の被験者に質問をし、生徒が誤った回答をしたら罰として電気ショックを与えます。電気ショックは10段階で、教師役は自由にショックのレベルを選ぶことができます。

教師役は、次の4つの部屋に割り振られました。ひとつめは、「実験を観察しに来た」学生2人がいる部屋。2つめは、「教師役の有能さを評価する」人物2人がいる部屋。3つめは、教師役の目の前に鏡が置かれている部屋。4つめは、何もない部屋です。

生徒役の被験者はじつはサクラなので、20の質問すべてに誤った回答をしました。教師役は「体罰に反対」という意見を取りながらも、生徒役に電気ショックを与え続けなければなりません。体罰反対派であれば、誰が見ていようがレベルの低い電気ショックを与え続けるはずですが、結果はどうだったでしょうか。

実験の結果、各条件での平均的な電気ショックレベルは、「教師役の有能さを評価する」人物2人がいる部屋で圧倒的に高く(4.0以上)、鏡がある部屋で一番低くなりました(2.0以上)。「実験を観察しに来た」学生2人がいる部屋と、何もない部屋では、ほぼ同じ平均値が出ています(3.0前後)。

実験から見えてくる「鏡」と「他者」の役割

被験者である教師役は、「自分は体罰に反対だけれど、他人は賛成している」という認識を持っているのですから、評価的な観察者がいる条件で電気ショックを大きくしたのは、期待に応じた振る舞いをしたためと考えられます。そして注目すべきは、鏡を置いた場合です。何もない部屋よりも電気ショックの平均値が低かったのは、鏡によって自分の内側と向き合い、「やはり、体罰はよくない」と再認識したためとは考えられないでしょうか。

同じ実験が、「自分は体罰に賛成だが、他人は反対している」という認識を持った学生群にもなされています。すると、評価的観察者がいる部屋ではショックレベルが低くなり(2.0以上)、鏡がある部屋ではショックレベルが最も高くなりました(5.0以下)。これは、鏡が自分の意見を確認し肯定する方向に導いた結果といえそうです。

つまり、「自分が本当は何を求めているか知りたい」「きちんと自分に向き合いたい」と思ったときには、鏡をじっくり見るのはいかがでしょうか。目をつむって瞑想するのもいいですが、目を開けて自分の姿を見つめるだけでも、内側にある自分にたどり着けるかもしれませんよ。

参考:「対人社会心理学重要研究集」6

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